天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「こらこら、髪を引っ張ってはいけません」
「あーうー」
「ふふふ、仕方ないですねえ」
紫紺のまろい頬をちょんちょんとつついてあやしました。
紫紺を抱っこしていると今まで感じたことがない穏やかな気持ちになります。
だって、じわりと伝わる体温がこんなに温かいのです。
この小さなぬくもりを守り抜かなければと……、…………ん?
「……本当にぬるいような…………」
ハッとして温もりの正体を確かめると。
チョロチョロ〜〜。
紫紺の足が濡れていて、私の夜着まで濡れていて……。
「お、お漏らししましたねっ……!」
そう、お漏らしでした!
しかも紫紺は満足そうに手足を動かします。
「あーあー」
「あーあー、ではありません。ああこんなに濡れて……」
「あうー」
「う、動いてはだめです。すぐに綺麗にしてあげますからじっとしてくださいっ……」
「あーうー」
お漏らししたのに元気な声をだしてなんだか誇らしげ。
それを見ていると漏らされたのに脱力して笑ってしまいそうになる。
仕方ありませんね、だってまだ生まれたばかりの赤ん坊です。赤ん坊とはお漏らしするものですから。それくらい子育て初心者の私にだって分かります。
「これが赤ん坊というものなのですね、手強い相手ですがお相手しましょう」
「あうあー」
「ふふふ、朝から元気でよいことです」
私は笑って言うと紫紺を綺麗にするために湯殿に連れていきます。
こうして私の子育てが始まったのでした。
「子育てというのは大変なんですね……」
昼餉が終わって私はようやくひと息つけました。
朝から慣れない子育てで慌ただしい時間をすごしていたのです。
朝のお漏らしから始まり、朝餉では用意してもらった乳を「べー」と吐き出され、着替えをさせたり、抱っこして寝かしつけたり……。朝から振り回されて大変でした。
式神の女官たちが手伝ってくれなければ、今こうしてひと息つくことも出来なかったでしょう。
「あーうー」
紫紺が上機嫌な声をあげています。
座敷に敷いた敷物に仰向けに寝転がって小さな手足をバタバタさせていました。機嫌がいいのはよいことです。
私はその姿に目を細めると、さっそく琴の稽古に励むことにしました。
伊勢を離れたとはいえ私は斎宮の白拍子。稽古をやめてしまうことはしたくありません。
午後の穏やかな陽ざしと緩やかな風に乗って琴の音が寝殿に響きました。
側の紫紺も「あー」「うー」と琴音に合わせるように声を出してくれます。
私もそれに応えるように琴を奏でていました。
「鶯、琴の稽古か?」
ふと黒緋が訪れました。
私は弦を弾く手を止めようとしましたが、「続けてくれ」と黒緋に稽古を続けるように言われます。
黒緋は静かに入ってくると紫紺の側に腰を下ろして私の琴を聞いてくれました。
「あーうー」
「ふふふ、仕方ないですねえ」
紫紺のまろい頬をちょんちょんとつついてあやしました。
紫紺を抱っこしていると今まで感じたことがない穏やかな気持ちになります。
だって、じわりと伝わる体温がこんなに温かいのです。
この小さなぬくもりを守り抜かなければと……、…………ん?
「……本当にぬるいような…………」
ハッとして温もりの正体を確かめると。
チョロチョロ〜〜。
紫紺の足が濡れていて、私の夜着まで濡れていて……。
「お、お漏らししましたねっ……!」
そう、お漏らしでした!
しかも紫紺は満足そうに手足を動かします。
「あーあー」
「あーあー、ではありません。ああこんなに濡れて……」
「あうー」
「う、動いてはだめです。すぐに綺麗にしてあげますからじっとしてくださいっ……」
「あーうー」
お漏らししたのに元気な声をだしてなんだか誇らしげ。
それを見ていると漏らされたのに脱力して笑ってしまいそうになる。
仕方ありませんね、だってまだ生まれたばかりの赤ん坊です。赤ん坊とはお漏らしするものですから。それくらい子育て初心者の私にだって分かります。
「これが赤ん坊というものなのですね、手強い相手ですがお相手しましょう」
「あうあー」
「ふふふ、朝から元気でよいことです」
私は笑って言うと紫紺を綺麗にするために湯殿に連れていきます。
こうして私の子育てが始まったのでした。
「子育てというのは大変なんですね……」
昼餉が終わって私はようやくひと息つけました。
朝から慣れない子育てで慌ただしい時間をすごしていたのです。
朝のお漏らしから始まり、朝餉では用意してもらった乳を「べー」と吐き出され、着替えをさせたり、抱っこして寝かしつけたり……。朝から振り回されて大変でした。
式神の女官たちが手伝ってくれなければ、今こうしてひと息つくことも出来なかったでしょう。
「あーうー」
紫紺が上機嫌な声をあげています。
座敷に敷いた敷物に仰向けに寝転がって小さな手足をバタバタさせていました。機嫌がいいのはよいことです。
私はその姿に目を細めると、さっそく琴の稽古に励むことにしました。
伊勢を離れたとはいえ私は斎宮の白拍子。稽古をやめてしまうことはしたくありません。
午後の穏やかな陽ざしと緩やかな風に乗って琴の音が寝殿に響きました。
側の紫紺も「あー」「うー」と琴音に合わせるように声を出してくれます。
私もそれに応えるように琴を奏でていました。
「鶯、琴の稽古か?」
ふと黒緋が訪れました。
私は弦を弾く手を止めようとしましたが、「続けてくれ」と黒緋に稽古を続けるように言われます。
黒緋は静かに入ってくると紫紺の側に腰を下ろして私の琴を聞いてくれました。