天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「あなたの子なら……あり得るんですか?」
「俺だけじゃない。俺とお前の子だ」
「は、はい。黒緋様と私の……」
……嬉しいです。頬が熱くなってしまう。
でも今は照れている場合ではありませんね。
私は改めて黒緋に聞くことにします。
「説明してください。あなたの子どもだと成長が早いんですか? そういうことってあるんですか?」
「俺の子は普通の人間の赤ん坊より成長が早い。個人差はあるが、利発な紫紺ならおそらく数週間で歩きだすと思うぞ」
「そ、そんなに早く……」
予想をはるかに超えていました。
にわかに信じがたいですが、蓮《はす》から現われた瞬間だって見ているんですから信じるしかありません。
私は紫紺を見つめました。
くるり、くるり、くるり。くるり、くるり、くるり。
それは見事な連続寝返りでした……。昨日生まれたばかりとはとても思えません。
「……あなた、とても上手に寝返りするのですね」
困惑しながらもそう声をかけると、紫紺が寝返りをぴたりっと止めます。
そして私をじーっと見上げたかと思うと、にこりっ。かわいらしく微笑んでくれて。
「っ、いいのです! 紫紺は紫紺! ちょっと普通の子と違ってもそれが紫紺なら構いません!」
「ばぶっ」
私はたまらずに紫紺を抱きしめました。
即座の撤回。紫紺の笑顔の前では疑問など吹き飛びました。
突然の抱っこに紫紺は目を大きくしましたが、小さな全身で私にぎゅっとしがみつきます。
ああなんて可愛らしいのでしょうね。
「あなたはすごいんですね。なんでも出来るのですね。こんなに可愛いのに、こんなにすごいなんてっ……」
紫紺のふっくらした頬に頬を寄せるとくすぐったそうに手足をバタバタさせます。
それが可愛くて私の頬も緩みました。
「黒緋様、紫紺ってすごいのですね」
「ああ、俺とお前の子だからな。きっと強くて丈夫な子になるぞ」
「はい、楽しみです」
私は大きく頷いて、また紫紺を見つめました。
理解が追いつかない摩訶不思議なことはたくさんありますが、今、私の腕の中に可愛い紫紺がいるのです。それだけで今は充分でした。
その日の夕方。
私は土間で夕餉《ゆうげ》の支度をしていました。
おんぶ紐で紫紺をおんぶして釜戸の前に立ちます。
「紫紺、そこにいてくださいね。今からあなたの夕餉を作ります」
背中の紫紺を振り返って話しかけると、返事をするように全身をバタバタ動かします。
「あうー、あー」
「ふふふ、仕方ないですねえ。あなたは座敷にいてほしいのに」
調理中は女官に世話を任せたかったのですが、紫紺がくるくる連続寝返りで私を追いかけてきたのです。
かといって私が土間を離れることはしたくありませんでした。しっかり料理の調理法を学びたかったので。
ならば解決策は一つ、私が紫紺をおんぶして調理すること。これで解決です。
「あーあー」
「はいはい、分かっています。ちょっと待っててくださいね」
トントントン。
野菜を包丁で刻んでいきます。
時々釜戸の火加減をたしかめて、土鍋の煮汁をぐるぐるかき回して。
「あぶぶ、あー」
「はいはい、楽しみなんですよね。分かっています。見ててくださいね」
「あー、あー」
紫紺が小さな腕を伸ばして私の髪を引っ張ったり、私の肩に顔をもぞもぞ埋めたり、いい子にしていてくれて助かります。
こうして紫紺と夕餉を作っていると土間に黒緋が姿を見せました。
「俺だけじゃない。俺とお前の子だ」
「は、はい。黒緋様と私の……」
……嬉しいです。頬が熱くなってしまう。
でも今は照れている場合ではありませんね。
私は改めて黒緋に聞くことにします。
「説明してください。あなたの子どもだと成長が早いんですか? そういうことってあるんですか?」
「俺の子は普通の人間の赤ん坊より成長が早い。個人差はあるが、利発な紫紺ならおそらく数週間で歩きだすと思うぞ」
「そ、そんなに早く……」
予想をはるかに超えていました。
にわかに信じがたいですが、蓮《はす》から現われた瞬間だって見ているんですから信じるしかありません。
私は紫紺を見つめました。
くるり、くるり、くるり。くるり、くるり、くるり。
それは見事な連続寝返りでした……。昨日生まれたばかりとはとても思えません。
「……あなた、とても上手に寝返りするのですね」
困惑しながらもそう声をかけると、紫紺が寝返りをぴたりっと止めます。
そして私をじーっと見上げたかと思うと、にこりっ。かわいらしく微笑んでくれて。
「っ、いいのです! 紫紺は紫紺! ちょっと普通の子と違ってもそれが紫紺なら構いません!」
「ばぶっ」
私はたまらずに紫紺を抱きしめました。
即座の撤回。紫紺の笑顔の前では疑問など吹き飛びました。
突然の抱っこに紫紺は目を大きくしましたが、小さな全身で私にぎゅっとしがみつきます。
ああなんて可愛らしいのでしょうね。
「あなたはすごいんですね。なんでも出来るのですね。こんなに可愛いのに、こんなにすごいなんてっ……」
紫紺のふっくらした頬に頬を寄せるとくすぐったそうに手足をバタバタさせます。
それが可愛くて私の頬も緩みました。
「黒緋様、紫紺ってすごいのですね」
「ああ、俺とお前の子だからな。きっと強くて丈夫な子になるぞ」
「はい、楽しみです」
私は大きく頷いて、また紫紺を見つめました。
理解が追いつかない摩訶不思議なことはたくさんありますが、今、私の腕の中に可愛い紫紺がいるのです。それだけで今は充分でした。
その日の夕方。
私は土間で夕餉《ゆうげ》の支度をしていました。
おんぶ紐で紫紺をおんぶして釜戸の前に立ちます。
「紫紺、そこにいてくださいね。今からあなたの夕餉を作ります」
背中の紫紺を振り返って話しかけると、返事をするように全身をバタバタ動かします。
「あうー、あー」
「ふふふ、仕方ないですねえ。あなたは座敷にいてほしいのに」
調理中は女官に世話を任せたかったのですが、紫紺がくるくる連続寝返りで私を追いかけてきたのです。
かといって私が土間を離れることはしたくありませんでした。しっかり料理の調理法を学びたかったので。
ならば解決策は一つ、私が紫紺をおんぶして調理すること。これで解決です。
「あーあー」
「はいはい、分かっています。ちょっと待っててくださいね」
トントントン。
野菜を包丁で刻んでいきます。
時々釜戸の火加減をたしかめて、土鍋の煮汁をぐるぐるかき回して。
「あぶぶ、あー」
「はいはい、楽しみなんですよね。分かっています。見ててくださいね」
「あー、あー」
紫紺が小さな腕を伸ばして私の髪を引っ張ったり、私の肩に顔をもぞもぞ埋めたり、いい子にしていてくれて助かります。
こうして紫紺と夕餉を作っていると土間に黒緋が姿を見せました。