天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「お待たせしました。さあ紫紺、どうぞこちらへ来てください」
「あう〜」

 紫紺を受け取るとぴたりっとくっついてきました。
 離れまいとするような仕草がかわいいです。

「あなたによい物を作ったんですよ? あなたならきっと大丈夫なんじゃないかと思って」

 そう言って私は小さなお椀を見せてあげます。
 お椀の中には重湯《おもゆ》が入っていました。そう、紫紺の重湯です。
 生後一日に重湯なんて本当は早すぎるのですが、紫紺の成長速度なら大丈夫だと思ったんです。だって。

「紫紺、あーんってしてください」
「あう?」
「あーん、ですよ。こうやって、あーん」

 口を開けて見せました。
 すると紫紺はじーっと見ていたかと思うと……かぱっ。「あー……」と小さなお口を開けてくれます。
 そのお口の中には小さな小さな白い歯が少しだけ覗いていました。

「ほらやっぱり。生えてると思ったんです。黒緋様、見てください。少しだけ歯が見えてます」
「どれ。おおっ、これか! さすが俺とお前の子だ!」
「ありがとうございます」

 ふふん、と私はなんだか得意げな気分。
 私との子どもを喜んでくれるのが嬉しいです。
 私はさっそく(さじ)(すく)って紫紺に食べさせてみます。

「紫紺、あ〜んですよ。あ〜ん」

 最初は警戒していた紫紺ですが、小さな唇を(さじ)でツンツンしてみると……パクリッ。
 しかも吐き出すことなくムニャムニャしてくれます。

「良かった。ちゃんと食べれそうですね」
「あーあー!」

 上手にごくんっとした紫紺がもっと欲しいとねだってくれます。
 気に入ってくれたようですね。これからは少しずつ紫紺の料理も増やしていきましょう。
 私はたくさん食べてくれる紫紺に目を細めます。

「作ってみて良かったです。でも今はこれでおしまいですよ。夕餉の時間まで我慢してくださいね」

 私はそう言い聞かせると黒緋を見つめました。

「黒緋様、申し訳ありませんが……」
「ああ、いいぞ。紫紺は俺が見ていよう」
「ありがとうございます。あとは(ぜん)を運べば夕餉を始められますので」

 黒緋は穏やかに笑って頷くと、「紫紺、行くぞ。お前はこっちだ」と紫紺を抱っこして連れていってくれます。
 いつまでも主人と子息を土間に足止めするわけにはいきませんからね。
 でも黒緋が土間から出ていく間際(まぎわ)に振り返りました。

「鶯、お前がいてくれてよかった。ありがとう」

 黒緋はそう言って笑むと、紫紺を連れて土間を出ていきました。
 残された私の頬が熱くなっていきます。
 黒緋に必要とされているのが嬉しいです。
 もっと、もっと頑張りましょう。そうすれば黒緋はもっと喜んでくれて、もっと私のことを好きになってくれるでしょうから。




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