天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「ハハハッ、鶯。紫紺なら大丈夫だ。山の歩き方も教えている」
「そういう問題ではありません。そもそもその油断が迷子を招くのです」
「鶯は心配しすぎだ。それとも山で迷ったことがあるのか?」
「ぅっ、それは……」
私は目を泳がせてしまう。
残念ながら……あるのです。伊勢の山で育った私は子どもの時に何度か山で迷ったことがありました。幸運にも無事に帰ってくることができましたが、一歩間違えればどこかで野垂れ死んでいたことでしょう。思い出すだけでも恐ろしい……。
しかし黙ってしまった私に黒緋はニヤニヤし、紫紺は「そうなのか?」と見つめてきます。
「わ、私のことはどうでもいいでしょうっ」
声を上げて切り上げました。
この話しは終わりです。これ以上しません。
「とにかく、二人とも気を付けてくださいっ。ちゃんと前を見て歩くんですよ?」
そう言って私は歩きましたが、バキッ!
踏み出した足でなにかを踏みました。
私はハッとして足元を確かめると、木札がわれていました。踏んづけてわってしまったのです。
「これは何でしょうか。なにか書いてあります」
木札の文字を読もうとしたその時、ぐにゃり。視界が歪む。
「鶯!」
咄嗟に黒緋の声がして手を掴まれたかと思うと、急激に視界が暗転したのでした。
「うっ、ここは……」
暗転した視界が戻るとそこは今までいた山と同じ場所でした。
でもすぐに違和感を覚えます。
音がないのです。山鳥のさえずりや動物の鳴き声、風で木の葉がこすれあう音さえありません。
不気味な静けさに背筋が冷たくなりましたが、ふと背後から声がかけられました。
「鶯、無事だったか」
「黒緋様!」
振り向くと黒緋がいました。
安堵して駆け寄ります。
「黒緋様、ご無事でよかったです。でもここはどこなんです? それに紫紺の姿がありません」
「おそらく紫紺とは引き離されたようだ。ここは結界の中のようだからな」
「ええっ、結界? まさかっ」
「ああ、鬼神の結界だ」
黒緋はそう言うと「行こう」と先に歩きだします。
私もついていきますが、鬼神の結界という言葉に不安でいっぱいになってしまう。
「黒緋様、紫紺は大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だ。紫紺は強いし、頭のいい子だ。お前も知ってるだろ」
「はい……」
私は返事をしながらも紫紺のことで頭がいっぱいになります。
こんな山奥で紫紺は一人きりでいるのです。きっと不安がっています。泣いているかもしれません。早く見つけてあげないと……。
そんな私の様子に黒緋は呆れたようなため息をつきました。
「そういう問題ではありません。そもそもその油断が迷子を招くのです」
「鶯は心配しすぎだ。それとも山で迷ったことがあるのか?」
「ぅっ、それは……」
私は目を泳がせてしまう。
残念ながら……あるのです。伊勢の山で育った私は子どもの時に何度か山で迷ったことがありました。幸運にも無事に帰ってくることができましたが、一歩間違えればどこかで野垂れ死んでいたことでしょう。思い出すだけでも恐ろしい……。
しかし黙ってしまった私に黒緋はニヤニヤし、紫紺は「そうなのか?」と見つめてきます。
「わ、私のことはどうでもいいでしょうっ」
声を上げて切り上げました。
この話しは終わりです。これ以上しません。
「とにかく、二人とも気を付けてくださいっ。ちゃんと前を見て歩くんですよ?」
そう言って私は歩きましたが、バキッ!
踏み出した足でなにかを踏みました。
私はハッとして足元を確かめると、木札がわれていました。踏んづけてわってしまったのです。
「これは何でしょうか。なにか書いてあります」
木札の文字を読もうとしたその時、ぐにゃり。視界が歪む。
「鶯!」
咄嗟に黒緋の声がして手を掴まれたかと思うと、急激に視界が暗転したのでした。
「うっ、ここは……」
暗転した視界が戻るとそこは今までいた山と同じ場所でした。
でもすぐに違和感を覚えます。
音がないのです。山鳥のさえずりや動物の鳴き声、風で木の葉がこすれあう音さえありません。
不気味な静けさに背筋が冷たくなりましたが、ふと背後から声がかけられました。
「鶯、無事だったか」
「黒緋様!」
振り向くと黒緋がいました。
安堵して駆け寄ります。
「黒緋様、ご無事でよかったです。でもここはどこなんです? それに紫紺の姿がありません」
「おそらく紫紺とは引き離されたようだ。ここは結界の中のようだからな」
「ええっ、結界? まさかっ」
「ああ、鬼神の結界だ」
黒緋はそう言うと「行こう」と先に歩きだします。
私もついていきますが、鬼神の結界という言葉に不安でいっぱいになってしまう。
「黒緋様、紫紺は大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だ。紫紺は強いし、頭のいい子だ。お前も知ってるだろ」
「はい……」
私は返事をしながらも紫紺のことで頭がいっぱいになります。
こんな山奥で紫紺は一人きりでいるのです。きっと不安がっています。泣いているかもしれません。早く見つけてあげないと……。
そんな私の様子に黒緋は呆れたようなため息をつきました。