天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「鶯、今は鬼神に集中しろ。斎王を狙っている鬼神は元々この山に封印されていた鬼神だ。どうやら鬼神は何者かの手によって封印を()かれ、斎王を殺すために伊勢に行っていたようだ」
「え、ではあの鬼神は誰かが封印を()いたということですか?」

 作為的なそれに青褪(あおざ)めました。
 鬼神は最初から斎王を狙っていたというのです。

「誰が封印を()いたのかは分からない。だが、強い力を持った呪術師であることは間違いない。お前が踏んだ木札はおそらく呪術師が張った罠だ」
「ではあの鬼神は呪術師に使役(しえき)されていたということですか? あんなに強い鬼神を使役するなんてっ……」
「驚くことじゃない。鬼神といえどそれを上回る力を持った呪術師なら使役は可能だ」

 黒緋はそう言いながら先へ進んでいきます。
 しばらく歩いているうちにぽっかり空いた空間に出ました。
 そこには小さな泉があり、その先には小さな(ほこら)が立っていました。

「あの祠を壊せば元の場所に戻れるぞ」
「早く壊しましょう! 早く紫紺のところに戻らないと!」

 私は祠に駆け寄ろうとしましたが、ふと泉の水面(みなも)を見て目を見開きました。

「紫紺!?」

 水面(みなも)には紫紺が映っていました。しかも巨大な鬼神と戦う紫紺が!

「紫紺! 紫紺が鬼神と戦っています!」
「どうやら俺たちと別行動になってから鬼神と遭遇(そうぐう)したようだな」

 紫紺が刀で応戦しています。
 小さな体の機動力(きどうりょく)()かし、鬼神を翻弄(ほんろう)しながら刀で攻撃を仕掛けていました。それは鬼神に引けを取らないものでしたが、だからといって安心していられるものではありません。
< 55 / 141 >

この作品をシェア

pagetop