天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
 突如(とつじょ)現れた私と黒緋に紫紺も驚きます。

「あ、もどってきた!」

 紫紺が戦いながら私を振り返りました。
 でもその(すき)を狙って鬼神の大きな拳が襲い掛かります。

小僧(こぞう)めっ、よそ見とは()めた真似を!! おおおおおお!!」
「こぞうじゃない、オレはしこんだ!」

 寸前(すんぜん)で紫紺は()けました。しかもその動きのまま素早く刀を一閃させます。
 しかし鬼神の腕を(かす)るだけで致命傷とはなりません。
 鬼神は結界を破って戻ってきた黒緋と私に歪んだ笑みを向けてきました。

「もう戻ってきたか。さすが陰陽師といったところか」

 鬼神が黒緋と私のところに向かって歩いてきます。
 でも阻止しようと紫紺が攻撃を仕掛けました。

「どこへいく! おまえのあいてはオレだ!」
「邪魔をするな! 貴様など(わし)の敵ではないわ!!」

 激昂した鬼神が紫紺に反撃しました。
 紫紺は反撃を()けて素早く矢を()ます。一矢、二矢、三矢、見事な連射です。
 でも弓矢の連射は目くらましで、(すき)をついて一気に鬼神の懐に入りました。

「えいっ、やあ!!」

 ドゴッ!! バキッ!!
 紫紺の強烈な殴打と蹴りに巨大な鬼神が吹っ飛びました。

「紫紺っ……」

 鬼神を圧倒する紫紺に私は息を飲む。
 このまま紫紺が勝ってくれることを願いましたが。

「……小僧(こぞう)が調子に乗りやがってっ。この(わし)を誰だと思っている……!」

 吹っ飛ばされた鬼神がゆらりと起き上がりました。
 どれだけ攻撃を仕掛けても巨大な鬼神にとって致命傷にはならなかったのです。
 でも紫紺は(ひる)んだりせず、また刀を構えて立ち向かいます。
 しかし攻撃を仕掛けてもいたずらに体力を消耗するばかりで、その勢いも徐々(じょじょ)に弱まりだしました。そしていつの間にか巨木に追い詰められ、紫紺は逃げ場をなくしてしまいます。

(おろ)か者め、小僧(こぞう)(わし)に叶うと思ったかっ!!」

 鬼神がニタリと笑いました。
 疲弊(ひへい)した紫紺の動きも鈍くなり、逃げだすことも難しいようです。
 もう見ていられませんっ。

「黒緋様、紫紺が危険です!!」

 黒緋にお願いしました。でも彼は「見ていろ」と言うだけで動こうとしません。
 私はたまらずに紫紺のもとに駆け寄ろうとしましたが、その時、紫紺が小さな指で(いん)を組みました。

「オレをちからわざだけだとおもうな」
「なっ、ぐああああっ……!!」

 瞬間、紫紺の足元から光の(くさり)が出現して鬼神を(から)めとりました。
 光の鎖が鬼神を雁字搦(がんじがら)めにしてぎりぎりと締めあげます。
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