天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「こんなにたくさん大変だっただろう。もっと早く替わってやればよかった」
「いえ、充分ですから」
私は側で黒緋の薪割りを見つめていました。
私の時よりずっと力強い薪割りはあっという間に薪の山を築いていくのです。
地面に転がった薪を拾っていると、黒緋が薪割りをしながら話しかけてきます。
「なあ鶯」
「なんでしょうか」
「これからもここに、……俺の側にいてくれないか?」
「えっ」
薪を拾っていた手が止まりました。
驚く私に黒緋が少し寂しそうに言います。
「それとも、伊勢の斎宮に帰るのか?」
続けられた言葉に目を丸めました。
でもじわじわと胸が熱くなって、足が浮くような心地になる。
鬼神討伐が無事に終わったことで私がここにいる理由が一つなくなりました。私はそれを不安に思っていたけれど、黒緋も私がいなくなってしまうんじゃないかと心配していたというのです。
驚きで言葉が出ない私に黒緋は勘違いし、「やはり帰ってしまうのか?」と心配そうな顔になりました。
そんな黒緋にハッとして、私は慌てて首を横に振ります。
「か、帰りません!」
思わず大きな声で答えていました。
自分でも驚くほど大きなそれに顔が熱くなって、「す、すみませんっ」と慌てて謝ります。
でも喜びが溢れてくる。
だって側にいることを許されたのです。今までの沈鬱だった気持ちが嘘のように晴れて、ああ舞い上がってしまいそう……!
「あ、あなたが許してくれるなら、ここにいますっ……。あなたの、側に……」
「そうか、ありがとう鶯! お前がいなくなるのは寂しいと思っていたんだ! これからもよろしく頼む!」
黒緋は子どものような笑顔を浮かべて喜んでくれました。
ありがとうと笑みを向けられて、「し、仕方ない人ですね……」なんて私は頬を熱くして俯く。
たったこれだけのことが嬉しい。胸がいっぱいになって弾けてしまいそう。
「よし、決まりだな。お前はこれからもここにいるといい」
「ふふふ、あなたが許してくれるなら」
「なにを言う。お前は紫紺の母だろう。堂々としてればいいんだ」
「なんですかそれ」
思わず笑ってしまいました。
勘違いしてはいけないのに、黒緋は天妃を取り戻すためにここにいるのに、黒緋に望まれていることが泣いてしまいそうなほど嬉しい。
側にいてほしいと乞われたのです。これだけで充分じゃないですか。そう、それだけで充分だと思わなければならないのです。
でも、どうしても考えてしまう。
――――天妃なんか見つからなければいい、と。
しかしそれは天への冒涜に等しい感情。
そんなことを考えてしまう自分の矮小さが泣きたくなるほど情けなくて、恐ろしくなりました……。
「いえ、充分ですから」
私は側で黒緋の薪割りを見つめていました。
私の時よりずっと力強い薪割りはあっという間に薪の山を築いていくのです。
地面に転がった薪を拾っていると、黒緋が薪割りをしながら話しかけてきます。
「なあ鶯」
「なんでしょうか」
「これからもここに、……俺の側にいてくれないか?」
「えっ」
薪を拾っていた手が止まりました。
驚く私に黒緋が少し寂しそうに言います。
「それとも、伊勢の斎宮に帰るのか?」
続けられた言葉に目を丸めました。
でもじわじわと胸が熱くなって、足が浮くような心地になる。
鬼神討伐が無事に終わったことで私がここにいる理由が一つなくなりました。私はそれを不安に思っていたけれど、黒緋も私がいなくなってしまうんじゃないかと心配していたというのです。
驚きで言葉が出ない私に黒緋は勘違いし、「やはり帰ってしまうのか?」と心配そうな顔になりました。
そんな黒緋にハッとして、私は慌てて首を横に振ります。
「か、帰りません!」
思わず大きな声で答えていました。
自分でも驚くほど大きなそれに顔が熱くなって、「す、すみませんっ」と慌てて謝ります。
でも喜びが溢れてくる。
だって側にいることを許されたのです。今までの沈鬱だった気持ちが嘘のように晴れて、ああ舞い上がってしまいそう……!
「あ、あなたが許してくれるなら、ここにいますっ……。あなたの、側に……」
「そうか、ありがとう鶯! お前がいなくなるのは寂しいと思っていたんだ! これからもよろしく頼む!」
黒緋は子どものような笑顔を浮かべて喜んでくれました。
ありがとうと笑みを向けられて、「し、仕方ない人ですね……」なんて私は頬を熱くして俯く。
たったこれだけのことが嬉しい。胸がいっぱいになって弾けてしまいそう。
「よし、決まりだな。お前はこれからもここにいるといい」
「ふふふ、あなたが許してくれるなら」
「なにを言う。お前は紫紺の母だろう。堂々としてればいいんだ」
「なんですかそれ」
思わず笑ってしまいました。
勘違いしてはいけないのに、黒緋は天妃を取り戻すためにここにいるのに、黒緋に望まれていることが泣いてしまいそうなほど嬉しい。
側にいてほしいと乞われたのです。これだけで充分じゃないですか。そう、それだけで充分だと思わなければならないのです。
でも、どうしても考えてしまう。
――――天妃なんか見つからなければいい、と。
しかしそれは天への冒涜に等しい感情。
そんなことを考えてしまう自分の矮小さが泣きたくなるほど情けなくて、恐ろしくなりました……。