天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「萌黄の神気の大きさは異常だ。人間離れしている」
「たしかに萌黄は生まれた時から大きな神気に恵まれています。斎王に抜擢されるほどなんですから」
「あれは恵まれてるってもんじゃない。……そっくりなんだ」
「そっくり? なんのことです」
訝しむ私を離寛がじっと見つめてきます。
意味深さを感じさせる視線に少し居心地が悪いです。なんですか? と問うと、離寛は真顔で口を開きます。
「俺は、俺は……鶯が天妃だと思っていた」
「はあ!?」
予想外の言葉に目を丸めました。
でも離寛は本気のようで、顎に手を当ててしげしげと私を見ます。
「俺はあんたがそうじゃないかって思ってたんだ。あんたは顔も声も驚くほど天妃に似てるから。でも」
離寛はそこで言葉を切りましたが苦い表情で続けます。
「でもやっぱり、どうしても鶯からは神気を感じない。同じ双子の萌黄があれほどの神気を持っているのに、あんたからは不自然なほど一切感じない」
「…………」
私は言葉が出てきませんでした。
離寛が似ているというなら私は本当に天妃に似ているのでしょう。
きっとそのおかげで黒緋は初めて出会った時から私に優しかったのかもしれません。そのおかげで私との子どもを望んでくれたのかもしれません。
……ギリギリと胸が軋む。
身のほど知らずにも黒緋に愛される天妃が羨ましいとすら思ってしまう。
でも今、私と同じ容姿の萌黄が現われました。しかも萌黄は人間でありながら神気に恵まれています。
私は離寛を見つめました。
あなた、優しいですね。私を気遣ってくれているんですね。
だって本当は、萌黄の神気は天妃の神気に似ていると、そう言いたいんですよね。
だから自分から聞きます。
「萌黄が天妃だというんですか?」
「……まだ決まったわけじゃない。でも」
「そうかもしれないと、そういうことですね」
握りしめた手の平に爪を立てる。そうでもしなければ声が震えてしまいそうでした。
決して願ってはいけないことを願ってしまう。天妃なんか見つからなければいいと。
天妃なんか見つからず、このまま黒緋と私と紫紺の三人でと。
私は萌黄が大好きなのに、それなのにもし萌黄が天妃だったらと思うと心の底に沸々とした感情が芽生えだしてしまう。
どす黒い感情が心に渦を巻き、腹の底から得体のしれない塊が頭をもたげるのです。そこから生まれる感情はひどく悍ましいもので。
「鶯……?」
黙り込んでしまった私に離寛が心配そうに声をかけてきました。
私はハッとし、慌てて首を横に振ります。
「なんでもありません。天妃が見つかるといいですね」
私は顔に無理やり笑みを貼りつけて、心にもない返事をしました。
「たしかに萌黄は生まれた時から大きな神気に恵まれています。斎王に抜擢されるほどなんですから」
「あれは恵まれてるってもんじゃない。……そっくりなんだ」
「そっくり? なんのことです」
訝しむ私を離寛がじっと見つめてきます。
意味深さを感じさせる視線に少し居心地が悪いです。なんですか? と問うと、離寛は真顔で口を開きます。
「俺は、俺は……鶯が天妃だと思っていた」
「はあ!?」
予想外の言葉に目を丸めました。
でも離寛は本気のようで、顎に手を当ててしげしげと私を見ます。
「俺はあんたがそうじゃないかって思ってたんだ。あんたは顔も声も驚くほど天妃に似てるから。でも」
離寛はそこで言葉を切りましたが苦い表情で続けます。
「でもやっぱり、どうしても鶯からは神気を感じない。同じ双子の萌黄があれほどの神気を持っているのに、あんたからは不自然なほど一切感じない」
「…………」
私は言葉が出てきませんでした。
離寛が似ているというなら私は本当に天妃に似ているのでしょう。
きっとそのおかげで黒緋は初めて出会った時から私に優しかったのかもしれません。そのおかげで私との子どもを望んでくれたのかもしれません。
……ギリギリと胸が軋む。
身のほど知らずにも黒緋に愛される天妃が羨ましいとすら思ってしまう。
でも今、私と同じ容姿の萌黄が現われました。しかも萌黄は人間でありながら神気に恵まれています。
私は離寛を見つめました。
あなた、優しいですね。私を気遣ってくれているんですね。
だって本当は、萌黄の神気は天妃の神気に似ていると、そう言いたいんですよね。
だから自分から聞きます。
「萌黄が天妃だというんですか?」
「……まだ決まったわけじゃない。でも」
「そうかもしれないと、そういうことですね」
握りしめた手の平に爪を立てる。そうでもしなければ声が震えてしまいそうでした。
決して願ってはいけないことを願ってしまう。天妃なんか見つからなければいいと。
天妃なんか見つからず、このまま黒緋と私と紫紺の三人でと。
私は萌黄が大好きなのに、それなのにもし萌黄が天妃だったらと思うと心の底に沸々とした感情が芽生えだしてしまう。
どす黒い感情が心に渦を巻き、腹の底から得体のしれない塊が頭をもたげるのです。そこから生まれる感情はひどく悍ましいもので。
「鶯……?」
黙り込んでしまった私に離寛が心配そうに声をかけてきました。
私はハッとし、慌てて首を横に振ります。
「なんでもありません。天妃が見つかるといいですね」
私は顔に無理やり笑みを貼りつけて、心にもない返事をしました。