天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「贈り物か、悪くないな」
「そうだろ。便利だぞ」
「黒緋も贈り物は欠かさないようだからな」
「当然だ。円満な夫婦関係には必要だ」
「そっちじゃない。天妃様のほうだ。新婚だろ、ご機嫌伺いくらいしてるのか?」
離寛がニヤリと笑って言った。
しかし今までと打って変わって黒緋の機嫌は下降する。
黒緋は天妃に贈り物をしたことはなかった。
「……あれは妻ではなく天妃だ。俺が選んで迎えたわけじゃない」
「気持ちは分かるが、たまには贈り物の一つくらいした方がいいんじゃないのか? 天帝が天妃を遠ざけすぎるってのも良くないだろ」
「考えたこともなかったが……」
黒緋は顎に手を当てて考え込む。
黒緋にとって天妃はあくまで天妃である。愛したから迎えたわけではない。天妃として相応しい神気を持っていたから迎えたのだ。
天上に天帝と天妃が揃えば地上に平穏がもたらされるのである。それは地上を愛する黒緋の望むところでもあった。理由はそれだけだ。
だが、迎えたからには天妃として扱わねばならないのも事実。
「……そうだな、お前の言うことにも一理ある」
黒緋はそう言うと、蕾を付けた庭木を見つける。
庭木の枝に手を伸ばし、――――パキリッ。枝を手折った。
そして女官を呼ぶと手折った枝を手渡す。
「これを天妃に渡してくれ。俺からだと」
「畏まりました」
女官は恭しく受け取ると後宮に向かって歩いて行った。
天妃に庭木の枝を渡しに行くのだ。黒緋の贈り物として。
「おいおいおい、本気か? 本気であれが天妃への贈り物なのか?」
「贈れと言ったのはお前だろ」
「そうだけど、もっとちゃんとした物を贈ればいいだろ」
「別になにを贈っても変わらんさ。天妃もさして気に留めないだろう」
黒緋が天妃に興味がないように、天妃も黒緋に興味を持っているとは思えなかったのだ。
あの気位の高い女はなにを考えているか分からないのだ。
こうしてうららかな昼下がりが過ぎていったのだった。
「そうだろ。便利だぞ」
「黒緋も贈り物は欠かさないようだからな」
「当然だ。円満な夫婦関係には必要だ」
「そっちじゃない。天妃様のほうだ。新婚だろ、ご機嫌伺いくらいしてるのか?」
離寛がニヤリと笑って言った。
しかし今までと打って変わって黒緋の機嫌は下降する。
黒緋は天妃に贈り物をしたことはなかった。
「……あれは妻ではなく天妃だ。俺が選んで迎えたわけじゃない」
「気持ちは分かるが、たまには贈り物の一つくらいした方がいいんじゃないのか? 天帝が天妃を遠ざけすぎるってのも良くないだろ」
「考えたこともなかったが……」
黒緋は顎に手を当てて考え込む。
黒緋にとって天妃はあくまで天妃である。愛したから迎えたわけではない。天妃として相応しい神気を持っていたから迎えたのだ。
天上に天帝と天妃が揃えば地上に平穏がもたらされるのである。それは地上を愛する黒緋の望むところでもあった。理由はそれだけだ。
だが、迎えたからには天妃として扱わねばならないのも事実。
「……そうだな、お前の言うことにも一理ある」
黒緋はそう言うと、蕾を付けた庭木を見つける。
庭木の枝に手を伸ばし、――――パキリッ。枝を手折った。
そして女官を呼ぶと手折った枝を手渡す。
「これを天妃に渡してくれ。俺からだと」
「畏まりました」
女官は恭しく受け取ると後宮に向かって歩いて行った。
天妃に庭木の枝を渡しに行くのだ。黒緋の贈り物として。
「おいおいおい、本気か? 本気であれが天妃への贈り物なのか?」
「贈れと言ったのはお前だろ」
「そうだけど、もっとちゃんとした物を贈ればいいだろ」
「別になにを贈っても変わらんさ。天妃もさして気に留めないだろう」
黒緋が天妃に興味がないように、天妃も黒緋に興味を持っているとは思えなかったのだ。
あの気位の高い女はなにを考えているか分からないのだ。
こうしてうららかな昼下がりが過ぎていったのだった。