天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「あなたの二人目の子どもです。抱いてあげてください」

 抱っこしていた赤ん坊を捧げるように差し出しました。
 黒緋は頷いて、小さな赤ん坊をその手でゆっくり抱き上げてくれます。
 でも。

「うっ、うぅ、うえええええええん!!」

 赤ん坊が大きな声で泣きだしてしまいました。
 しかも黒緋の抱っこから逃れるように小さな手を私に向かって伸ばしてきます。

「あうあ〜! ああああん! ああああああああん!」
「こ、こら、泣いてはいけませんっ」

 泣きわめく赤ん坊を慌てて宥めます。
 でも赤ん坊はなきやまなくて、大きな声で泣いたまま私に手を伸ばすのです。
 せっかく黒緋に抱っこしてもらっているのになんだか申し訳ない気持ちになってしまう。

「す、すみません、黒緋様……」
「構わない。お前に抱かれたいようだな」

 黒緋は優しく言うと私へと赤ん坊を戻します。
 私が抱くと今まで泣いていたのが嘘のように静まって、それがまた申し訳なさでいっぱいになる。

「すみません……」
「なにを謝る。この子はお前が好きなようだ」

 黒緋は穏やかな表情でそう言ってくれました。
 特に気にした様子はないようで、むしろ「元気な子で嬉しいよ」と喜んでくれます。それにほっと安心しました。
 私は誓うように約束します。

「はい、この子も強くなります。必ず強くなります」
「ああ、よろしく頼む。俺の子を生んでくれてありがとう」

 そう言ってくれた黒緋に私は(うなず)きました。
 必ず、必ず強くします。この子があなたの望む子どもになるように。

「さあ池からあがれ。体が冷えてしまう」
「はい、ありがとうございます」

 私は黒緋の手を借りて池からあがりました。
 同じく池に入っていた紫紺も全身びしょ濡れです。あとで一緒に湯浴みをしましょうね。

「鶯、おめでとう! 私、とっても感動したわ!」

 萌黄が涙を浮かべてお祝いしてくれました。
 赤ん坊を抱く私の手にそっと手を添えて、「鶯、ほんとうにおめでとう」と祝福してくれます。

「ありがとうございます」
「私こそ、こんな奇跡の光景を見せてくれてありがとうだよ。本当に夢みたい」

 感動する萌黄に私も頷きます。
 私は二度目ですが何度体験しても夢のような奇跡なのです。

「でもなんか不思議な感じ。鶯に二人も子どもができたなんて」
「私も不思議な心地ですよ。体を痛めているわけではありませんから、発生してきたような?」
「アハハッ、たしかに」

 笑った萌黄に私も微笑します。
 私は生まれたばかりの赤ん坊を抱っこし、黒緋と紫紺を見つめました。

「オレはあにうえになったんだ!」

 紫紺が嬉しそうに萌黄に自慢しています。
 その可愛らしい姿に私は目を細めました。
 それは黒緋も同じで微笑(ほほえ)ましい気持ちになっているようです。

「紫紺は弟ができたことが嬉しいようだな」
「はい」
「鶯、改めて礼を言う。二人目の子どもをありがとう」
「いいえ、あなたのお役に立てて嬉しいです」

 私は照れくさくなって視線を泳がせました。
 嬉しい。黒緋が喜んでくれました。二人目の子どもを作って本当に良かったです。
 私はちゅっちゅっと指吸(ゆびす)いをしている赤ん坊を覗きこみ、心から安堵(あんど)しました。
 こうして黒緋と私のもとに二人目の赤ん坊、青藍(せいらん)が生まれたのでした。




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