天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
青藍が生まれて三日が経過しました。
三日前に誕生した赤ん坊は青藍と名付けられ、黒緋と私の二人目の子どもになりました。
新しい赤ん坊が生まれたとしても私たちの生活は変わりません。
今日の黒緋は奥の間で仕事をし、紫紺は手習いをし、萌黄は御所にあがって公家に挨拶回りをしています。私は土間で炊事をしたり、掃除をしたり、青藍のお世話をしたり。
青藍は元気に育っているわけですが。
「うえええええええん! ええええええん!」
「ああ、青藍。今度はなにがありましたか?」
私は小さな体でうずくまって泣いている青藍に慌てて駆け寄りました。
さっきまで渡殿を上機嫌でハイハイしていたのに、突然ぴたりっと止まったと思ったら、ふらふらとよろめいて泣きだしてしまったのです。
側に膝をつくと、小さな体がよろよろと私に縋ってきます。
「あう〜、あう〜、あいあ〜」
「いったいどうしました? なにかありましたか?」
抱っこすると泣きやんで、ちゅちゅちゅちゅっ、安心したように親指を指吸いします。
安心してくれたのはいいのですが、もしかして……。
「あなた、もしかしてハイハイに疲れたから泣いてるんですか?」
「あい〜。ちゅちゅちゅ」
「ああやっぱり……」
この子は生後三日でとっても上手にハイハイできるようになりましたが、疲れると泣いてしまうのです。
さっきも疲れてもう一歩もハイハイできないとばかりに泣き崩れていたというわけです。
私は青藍を抱っこしながら呆れたようなため息をついてしまう。
大きな産声とともに誕生した青藍は元気な子だと思っていましたが、元気は元気でもちょっと泣き虫な子でした……。
しかも庭園にいたカエルがぴょんっと跳ねただけでびっくりして泣いたり、犬が吠えただけで泣いたり……。ちょっと怖がりで甘えん坊だったのです。
「そんなに泣いて、困りましたね……」
「あう〜。うっ、うっ、うえええええん!」
「ほらほら泣いてはいけません。それでは強くなれませんよ?」
「あうあ〜。うえええええええん!」
「よしよし、泣いてはいけません。強い子は泣かないのです」
私は抱っこしながら小さな背中をなでなでしてあげます。
こうして青藍をあやしていると庭園に黒緋が出てきました。
今の時間は奥の間で仕事をしているはずなのに……。
黒緋は青藍の泣き声に気づいてこちらに歩いてきて、私はぐずった青藍を抱っこしながら居住まいを正します。