天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「すみません、泣き声がうるさかったですよね。お仕事の邪魔をしてしまいました」
「あう〜、あ〜、うえええええんっ」
「よしよし、どうしてあなたが泣くのです。泣いてはいけませんよ」

 青藍を慌ててあやしました。
 最近、(きょう)(みやこ)では結界を破壊されて魑魅魍魎(ちみもうりょう)が人を襲っているらしく、黒緋は離寛とともに対応で忙しくしていました。
 黒緋は天帝ですが地上では陰陽師という(かり)の姿でいるため、実際に陰陽師の仕事もしているのです。

「気分転換に出てきただけだ。気にするな」
「しかし……」
「構わない。自分の息子の泣き声を不快(ふかい)に思う父親はいないだろう」

 黒緋はそう言うと渡殿(わたどの)に腰を下ろしました。
 側に来てくれて胸が高鳴ります。たったそれだけのことを意識する自分が少し恥ずかしい。
 私は誤魔化(ごまか)すように話題を変えます。

「最近、お忙しいようですね」
「ああ。都の結界を破壊しているのは羅紗染(らしゃぞめ)だということまで突き止めたが、その目的が分からないんだ」
「そうでしたか」
「近々、(きょう)(みやこ)の結界を強化する。しばらく紫紺の鍛錬の相手が出来なくなるのが残念だが」
「きっと紫紺も残念がるでしょう。あの子は体を動かすのが好きな子ですから」
「ああ、鍛錬や手習いもよく頑張っている。充分な才覚だ」
「そうですね。頼もしいです」

 紫紺が褒められて誇らしいです。
 紫紺はあなたの望むような子に育ってくれているのですね。
 黒緋は次に私が抱っこしている青藍を見ました。

「お前はちょっと泣きすぎなところもあるが、どう育つか楽しみだ」

 そう言って黒緋が青藍に手を伸ばします。
 そのまま青藍を抱っこしてもらおうと差し出そうとしましたが。

「うぅ、うえええええええん!!」

 青藍が大きな声で泣きだしました。
 しかも私にぎゅっとしがみついて離れようとしません。
 そんな青藍に黒緋が苦笑します。

「これは参ったな……」
「も、申し訳ありませんっ。ごめんなさい! 青藍はまだ赤ん坊で、まだなにも分かっていなくてっ……」

 私は青藍を(なだ)めながら必死に弁解します。
 あまりの申し訳なさに身も心も(ちぢ)こまってしまいそう。
 青藍はちょっとしたことにも泣いてしまう泣き虫ですが、甘えん坊なので抱っこされたり構われたりすることは大好きなのです。でもこうして黒緋が抱っこしようとするとぐずって泣いてしまうのです。人見知りをしてしまうようでした。
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