天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜


 その夜。
 私は青藍の泣き声で目が覚めました。

「うっ、うっ、あう〜」

 隣で眠っていた青藍が泣いています。夜泣きでした。
 優しくトントンしながら声をかけます。

「どうしました? 怖い夢でも見ましたか?」
「うえええんっ。えええんっ……。うっ、うっ。うええん……」
「よしよし、もう大丈夫ですよ」

 寝ぐずりする青藍を抱っこしてあげました。
 どうやら青藍は寝惚(ねぼ)けているようですね。うとうとしながらちゅっちゅっちゅっ。でも上手に指吸(ゆびす)いができなくて泣いてしまうのです。
 このまま眠ってくれる様子はありません。仕方ないですね……。

「今夜は月が明るいですね。少し散歩に行きましょうか」
「あう〜、あう〜」
「うまく眠れなくて泣いてしまうのですね。大丈夫、またすぐに眠れますよ」

 私は青藍をつれて庭園に出ることにします。
 夜泣きを止めるには気分転換が一番ですから。
 草履(ぞうり)をはいて外に出ると、庭園は月明かりの淡い光に包まれていました。

「寒くありませんか?」
「あいあ〜」
「ふふふ、平気なようですね」

 私は青藍を両腕にしっかり抱っこして月夜の散歩をします。
 青藍が甘えるようにぎゅっとしがみついてきて、その小さな背中をなでなでしてあげました。
 広い庭園をゆっくり歩いて夜空を見上げます。

「綺麗な夜空ですね」

 夜空一面に星々が輝いていました。まるで星の大河のような景色にため息が漏れます。
 このまま寝床へ帰るのはなんだか勿体(もったい)ないですね。次は池まで歩いてみましょうか。

「池を見に行きましょうか。あなたや紫紺が生まれた池なんですよ?」
「あう?」
「とても綺麗な満月の夜に紫紺とあなたは生まれたんです」

 紫紺と青藍が生まれた夜のことは昨日のように覚えています。
 奇跡の光景にとても感動したのですよ。
 その時のことを思い出しながら歩いていきます。
 でも、視界に飛び込んできた光景に足が止まりました。
 息を飲んで、咄嗟(とっさ)に物陰に隠れてしまう。
 池の前に二つの人影を見つけたのです。一人は黒緋。もう一人は萌黄でした。
 二人の姿に呼吸が詰まって、心臓がドクドクと嫌な音を鳴らしました。
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