天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「突然で悪いが、お前たちに話しておきたいことがある」

 突然のそれに紫紺がきょとんとして食事の手を止めました。
 でも萌黄だけは緊張した顔になります。
 その萌黄の僅かな変化に気づいてしまって、嫌な予感を覚えてしまう。
 しかし表情には出しません。私も青藍の世話を止めて黒緋に向き直りました。

「ちちうえ、はなしってなんだ」

 紫紺が不思議そうに聞きました。
 黒緋は頷いて真剣な顔になります。

「天帝の俺がどうして地上に降りたか知っているな」
「うん、てんひをさがしてるんだろ?」
「そうだ。天妃は天上から落ちて四凶を封じた。俺は地上に落ちた天妃をずっと探していた」

 黒緋はそこで言葉を切ると、萌黄を見つめました。そして。


「俺は萌黄を天妃として迎えようと思う」


 紡がれた言葉。
 私はみるみる強張っていく顔を(うつむ)いて隠す。
 でも隠すもなにも今は誰も気づきません。黒緋が告げた言葉に紫紺は驚き、萌黄は顔を赤くしてしまったから。
 紫紺はびっくりした顔で萌黄を見ます。

「もえぎがてんひだったのか!?」
「わ、私が天妃なんて信じられないよねっ。私も信じられなくて……っ」

 萌黄は半信半疑(はんしんはんぎ)な様子でした。
 でも萌黄は斎王です。天帝に仕えることを役目とした立場です。天帝に迎えたいと()われれば、それを断るなんてできないのです。

「そっか。それじゃあ、もえぎはちちうえのてんひになるんだな」
「う、うん……」

 躊躇(ためら)いつつも萌黄が頷きました。
 そんな萌黄に黒緋は優しく目を細め、次に私を見つめます。
< 96 / 141 >

この作品をシェア

pagetop