愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「あの、本当に、本当にやめてください。清隆さんが謝る必要なんてありません。お忙しい清隆さんを煩わせてはいけないのは本当のことですから。蔑ろにされただなんて思っていません」
「雅。お願いだから、そうやって自分を犠牲にして、他を受け入れるのはやめてくれ」

 清隆のその言葉は雅にはよく理解できなかった。雅に自分を犠牲にしているという感覚はない。ただ自分が為すべきことをしているだけなのだ。

 自覚のないことをやめろと言われても、どうしていいのやらわからず、雅が困惑の表情を浮かべていれば、清隆は眉間に皺を寄せて、さらなる懺悔の言葉を吐きだしてくる。

「政略結婚だったとしても、お互いを尊重して歩み寄ることはできるんだ。それを私は、一方的に君を突き放して、二人の間にわざと壁を作った。歩み寄ることを放棄していたんだ。だから、君は怒っていい。怒っていいんだ」

 怒っていいと言われても、雅には怒りの感情なんて少しも湧かない。けれど、清隆の言いたいことはなんとなく伝わった。形だけでも夫婦であろうとしてくれているのだとわかった。だからこその謝罪なのだろう。

 それでも彼が謝る必要はやはりないとは思うが、このまま同じやり取りをして、清隆に頭を下げさせ続けるのはどうにも嫌で、雅は彼の想いを受け入れることにした。

「……私は本当に怒ってなどいません。清隆さんには感謝の気持ちしかありません。ですが、私にお心を配ってくださって、とても嬉しく思います。ありがとうございます。謝罪の言葉、受け入れますから、どうかこれ以上は」

 そう言ってやれば、清隆はようやくその表情を緩めてくれた。
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