愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「雅。君を生涯愛すると誓う。君を心の底から愛しているんだ。君が好きで好きでたまらない。どうか私の愛を受け入れてほしい」
「……愛?」

 『愛』の定義は雅も当然知っていて、それが世の中に存在していることはわかっている。雅の中にも弟への愛や母への愛がある。

 けれど、愛がないはずの清隆との間の愛と言われて、雅は激しく混乱する。彼が雅を愛するだなんて、そんなこと天と地がひっくり返っても起こるとは思えなかったのだ。

 『愛』とはいったいどういうことなのだと、雅は清隆を探るように見つめてしまう。

 清隆はそんな雅の視線をしっかりと受け止め、さらに言葉を重ねてくる。

「ああ、愛だ。君を愛している。嘘偽りなく。だから、この場で誓いたかった」

 この場と言われて、雅は今自分がいる場所を思いだした。この場で誓う愛と言われれば、雅にもわかる。そんな尊いものを清隆が雅へ誓ってくれるだなんて、あまりにも贅沢すぎる。恐れ多くてしかたない。

 けれど、清隆に愛されているのだと理解すれば、自分でも制御できないくらいに心が強く強く震えだす。たくさんの感情が湧き立ってしかたない。

 そうしてその感情を素直に受け入れていけば、雅は今初めて一つの答えにたどり着いた。ずっとずっと雅の心を揺り動かしていた答えを見つけたのだ。

 それを見つけてしまえば、雅は自分の感情を抑えられなくて、勝手に涙がこぼれだした。
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