愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「どうした? なぜ泣く? 私の愛が嫌か?」
「違います……違うんです。今、わかって……」
「何がわかったんだ?」

 彼にその答えを言いたい。伝えたい。でも、気持ちが昂りすぎて涙ばかりが溢れてくる。

 雅が喉を詰まらせながら泣いていれば、清隆は雅をあやすように優しく雅の頭を撫ではじめた。とても心地いい。安心する。

 しばらくそれを黙って受け入れていれば、雅は少しずつ落ち着きを取り戻し、ようやくその口を開くことができた。そして、見つけたその答えを清隆へと伝える。

「私も同じだとわかりました。私も清隆さんを愛しています。あなたを愛しているのだと理解したんです」
「え……本当か?」

 清隆は信じられないという表情をしていて、もしかしたら先程の雅も同じような表情をしていたのかもしれないと雅は思った。

 清隆は雅にもわかるように伝えてくれたのだから、雅もわかるように伝えたい。雅は自身の中に渦巻く清隆への想いを正直に口にしようと思った。

「本当です。清隆さんの隣はとても居心地がよくて、いつも清隆さんの隣にいたいと思ってしまいます。清隆さんに触れてもらうと、とても満たされた心地になって、いつまでも触れていてほしいと思ってしまいます。清隆さんの笑ったお顔を見ると、とても幸せな気分になるから、私も清隆さんを幸せにしたいといつも思っています。これは愛とは違いますか?」
「違わない……本当にそう思ってくれているのか?」
「はい」
「そうか。そうなのか。信じられない。君に想いを返してもらえるだなんて夢のようだ」

 清隆の瞳がキラキラと輝いている。たかだか雅の愛にこんなにも嬉しそうにしてもらえるだなんて、雅のほうが夢を見ているようだ。

 でも、すぐに清隆から強い抱擁を与えられて、これが現実のことだと理解していく。

「ありがとう! ありがとう、雅! 愛してる。君を誰よりも愛している!」
「はい。私も清隆さんを心より愛しております」

 二人は誰一人見る者のいない中、誓いのキスを交わした。

 清隆への愛を知って、清隆からの愛を受け取って、雅は人生で一番の幸福に包まれている。幸せで、幸せで、またも勝手に涙が溢れだす。

 どうか愛するこの人のそばに一生いさせてください、と雅は心の中で誓った。

 そんな願いを持てば、なぜだか言いようのない小さな不安も湧き起こったけれど、きっとそれも清隆を愛しているからこそのものだと雅はそれごと受け入れた。
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