愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「はい。清隆さんがとてもよくしてくださるので、すっかり今の生活にも馴染みました」
「そう。まあ、もう結婚して八ヶ月だものね。慣れて当然よね」

 とげとげしい義母の口調に心臓がヒュっと縮こまる。

「……はい、そうですね」
「それで? 結婚してこれだけの時が経っているのだけれど、いつになったらいい知らせが聞けるのかしら?」

 その質問に今度は心臓を強く握り込まれた心地になる。この義母からも、実の父からも、跡継ぎのことをうるさく言われていたが、最近はそれを聞くこともなくなり、清隆との関係も変わったから、すっかり端のほうへと追いやってしまっていた。

 清隆は雅を頻繁に抱いてくれるし、それを果たせる日も遠くないと思って、あまり気にしなくなっていた。だが、こうして直接的にそれを言われると、それなりの回数をこなしているのに未だ授かれていないという現実が急に雅に襲い掛かってくる。

 恐怖が雅に押し寄せ、喉が張りつく。上手く声が出せない。

 それでもこういう場でだんまりを決め込むのは、経験的に一番やってはいけないことだとわかっているから、雅は無理に力を込めて、出るに任せる言葉を紡ぎだした。

「……いいお知らせができず、申し訳ございません。一日も早くそのお知らせができるよう精進いたします」
「本当かしら? あなた、清隆の妻という立場に胡坐をかいているのではなくて?」
「……いえ。至らない嫁で申し訳ございません」

 ひどく上から口調の義母の責めにも、雅はただ下手に出ることしかできず、雅は義母へ向かって深く頭を下げた。

「はあ。清隆とあなたとでは格が違うのですよ? それをわかっていて?」
「……重々承知しております」
「あなたとの結婚なんてお情けのようなものなのよ? あなたがいなくなったところで、うちは少しも困らないのだから」
「……仰る通りです」

 すべて受け入れるしかない雅に対し、義母の責めは一向に止まらない。

「清隆にふさわしい人はもっと他にいるの。役目を果たせない人間がいつまでもこの場にいられると思わないでちょうだい」
「っ……はい」
「一年。結婚から一年のその日までに役目を果たせないのなら、もうここにいられるとは思わないで」

 義母からの残酷な宣言に、雅は目の前が真っ暗になる。

「……一、年……」
「それでは期待していますよ? 雅さん」

 義母は、打ちひしがれる雅を楽しそうに見つめながら、すたすたと去っていった。

 あと残り四ヶ月。たったそれだけの期間で子を授かれなければ、雅は清隆のそばにいられなくなってしまう。愛する清隆と引き裂かれる。

 雅はその思考にとらわれて、深い深い絶望の淵へと突き落とされてしまった。
< 114 / 177 >

この作品をシェア

pagetop