愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「あなたのお父さまも納得されているから、安心して実家にお帰りなさい。あとのことはすべてこの桜子さんが引き継いでくれますから」
「……え?」
「あなたのような成り上がりの家の子ではなくて、由緒正しい家柄のご令嬢よ。桜子さんはお優しいから、清隆が初婚でなくてもいいと言ってくれているの」

 身を切り裂かれるような激しい痛みが雅を襲う。愛する清隆と別れなければならないどころか、清隆にはもう次の相手が決まっているだなんて、雅を地獄へ突き落とすには十分であった。どこまでも希望を打ち砕かれる。

「もう自分の立場はおわかりになっているわね? 今すぐに荷物をまとめてこの家を出なさい。いいわね?」
「っ!」

 今すぐにだなんてあんまりだ。せめて清隆とちゃんとお別れがしたい。

 清隆との別れがもう変えられない事実なのだとしても、自分の言葉で別れを告げてから去りたい。そのくらいは許されてもいいのではないだろうか。

 その気持ちのままに雅は言葉を絞り出す。

「ですが、清隆さんにもお話――」
「あら、いやだわ。母である私が言っているのだから、清隆が言ったのと同じよ。清隆にももう連絡済みですから、あなたは余計な心配はしなくていいの。早く準備なさい」

 雅の言葉を遮って放たれた義母の言葉に雅は大きく肩を落とす。清隆にまで知らされているだなんて、今起こっているすべてのことはもう決まっていたことなのだと、雅は小さな希望さえ手放すしかなくなった。
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