愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 もう雅はただ言われた通りにするしかなく静かに立ち上がる。荷物をまとめに自室へ向かおうとすれば、桜子から何やら耳打ちされた義母が無慈悲な言葉を雅へ投げかける。

「あなたの携帯電話を持ってきてくださる? もうあなたが清隆と関わることはないのだから、連絡先を消させてもらうわ」
「っ……では、一度清隆さんに連絡をしてから――」

 またも義母は雅の言葉を遮る。

「私の言ったことが聞こえていなかったの? 清隆には連絡済みだと言ったはずです。あなたからの連絡は不要よ。すぐに持ってきなさい」

 義母に強く睨まれれば、雅は言う通りにするしかなかった。

 義母へ大人しく携帯を渡す。義母はそれを受け取ると、早く準備をしろと雅をせっつき、リビングから追い出した。

 雅が必要最低限のものをまとめてリビングへ戻ると、清隆どころか加々美家に関わる人すべての連絡先が消された携帯電話を返された。

 これではもう清隆に最低限の礼を尽くすこともできない。せめて『ありがとう』と『ごめんなさい』だけは伝えたかった。

 今日は結婚記念日だからと、夜に家でささやかなお祝いをする予定だったのだ。どうしても抜けられない打ち合わせがあるから、外食ディナーは別の日にして、家で二人きりで祝おうと。清隆がケーキを買って帰るから一緒に食べようと。そう約束していた。

 その約束を守れないことを謝りたい。そばにいられなくなったことを謝りたい。

 そして、雅にたくさんのものを与えてくれた清隆に感謝の言葉を伝えたかった。

 だが、それももう叶わない。
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