愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
　浩二は雅が座るや否や雅に話しかける。

「久しぶりだね。雅さん。私のことは覚えているかな？」
「……はい」
「ははは。ほとんど顔を合わせたこともないというのに、覚えているとはさすがだね」

　褒められているはずなのに、この男からは気持ち悪さしか感じない。ねっとりと絡みつくようなこの手の視線は過去に何度も味わってきた。

　父が雅に引き合わせようとする男性の大半はこの品定めするような視線を送ってきた。雅はそれをいつも気味悪く感じていたが、父の手前それを表に出すようなことはなかった。どんなに不快な感情を抱いても、雅自身の感情はいつも捨て置いていたのだから。

　しかし、清隆に愛されている今は違う。とにかく気持ち悪いという感覚に支配されて、上手く笑みを浮かべられない。対する浩二はずっと楽しそうに笑みを浮かべている。

「そんな怯えた顔をしなくてもいい。今日は君と私にとって記念すべき日なんだからね」

　その台詞で雅はかえって怖くなった。この男の笑顔が不気味でならない。記念すべき日というのは、雅にとってはそうではないと直感でわかる。

　嫌な予感に雅が身を固くすれば、浩二は雅のその様子さえ楽しそうに笑って見つめてきた。
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