愛なき政略結婚は愛のはじまりでした

　誓いの言葉に続き、指輪の交換も滞りなく行われれば、次に待ち受けるは最大の難所。清隆の手でベールアップされてしまえば、もう逃げようもない。

　百五十七センチと平均的な身長である雅に対し、百八十センチという長身の清隆が目の前に立てば、雅は否が応でも首をグッと上へ向けなければならない。上から見下ろしてくるその大きな男の威圧感は凄まじい。少しの笑みもなく、何の感情も感じられない彼のその表情が、それに拍車をかけている。

　雅は勝手に恐怖心が湧いてきて、今にも体が震えだしそうだ。全身に強く力を込め、どうにか己の体を律していれば、彼はその見た目とは裏腹に優しい手つきで雅の肩に触れてくる。ゆっくりと目の前の男がその顔を近づけてくるのを、雅はもう見ていられなくて、目をしっかりと閉じてひたすら神に祈りはじめた。

（後生ですから、この場を何事もなく無事に終えさせてください。この人に精一杯尽くすと誓いますから、どうか私の感覚を消してください）

　おおよそ誓いのキスを前に新婦が祈るには似つかわしくない内容であろうが、そうやって神にでも祈らなければ耐えられなかったのだ。雅は今にも失神しそうなのを堪えていた。