愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「できる範囲でだが、子供を作ることには協力する。ただし、二人までだ。それ以上は期待するな」

 その言葉から始まるのは少し意外であった。雅がそんなにも子供を欲していると思ったのだろうか。

 自分の子供に対して自分がどういう気持ちを抱くのか雅にはわからない。どうしてもこの人との間に子供がいる状態というのが想像つかないのだ。ただただ跡継ぎを産むべきという使命感にかられているだけで、特別子供を欲しているわけではない。

 早く跡継ぎを産んでその役目からは解放されたいという気持ちのほうが強いから、清隆の言葉に否定したいところなど微塵もなかった。

 雅がまた頷けば、清隆はさらに続ける。

「生まれた子には加々美家の人間として、ある程度の教育を受けさせる必要があるが、基本は君に任せる。シッターが必要というなら雇ってもいい。私は子供のことで煩わされたくはない。仕事に集中させてくれ。後出しで悪いがわかってくれるだろうか?」

 雅は二つの思いにかられた。一つは自分の教育が悪ければ、この人に責められるかもしれないという恐怖。そして、もう一つは子供に恐ろしい父親を関わらせなくて済むという大きな安堵感だった。

 後者のほうが圧倒的に大きい。これまでの父との関係が雅にそう思わせていた。だが、雅自身はそれを自覚できていない。ただただ恐怖と安堵という二つの感覚を同時に味わって戸惑い、それでも雅にできることはただ夫の言うことに従うことだけであるから、雅は承諾の返事だけを口にした。

「はい。わかりました」
「やはり、君は聞き分けがよくて助かる。では、始めるか」

 その言葉と共にベッドへと押し倒される。いよいよそれが始まるのかとまた緊張が襲ってきた。

 ベッドに仰向けになった雅に覆いかぶさるように清隆が迫ってくる。大きなその男が上から雅を見下ろしている。

 その状況を理解した途端、雅にフラッシュバックが起こった。
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