愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
　雅に対しては、いずれどこかに嫁がせなければならないからと、ある程度手加減されてはいたが、それでも痕が残らない程度での暴力を受けた。

　母に至っては、はっきりと痣が残るほどの強い暴力を振るわれており、雅はそれがいつも苦しかった。母が痛めつけられるのがつらくてたまらなかった。

　父は跡継ぎを産めなかった母のことを常に見下しており、母の子である雅も父からはあまりいいようには思われていない。

　母は結婚してから三年もの間子宝に恵まれず、ようやく生まれた子供は女児である雅。雅の出産後は妊娠の兆しもなく、父は愛人を囲って子供を産ませたのだ。それが誠一郎である。

　母は跡継ぎを産めなかったことに引け目があり、いつも父の言いなりだった。躾のときには雅のことを庇い、あとから何度も「ごめんね」と謝ってくれたが、雅にも父の言うことを聞くように求めた。それが二人が平穏に暮らせる唯一の道だったのだ。

　成長するにつれて雅は父の機嫌を損ねない振る舞い方を学んだ。父から求められる以上に自分に厳しくあるようにし、少しの隙も生まれないようにした。そうして段々と躾を受けることはなくなっていたのだ。
< 22 / 177 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop