愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
***
自室に戻った清隆は先程の雅の様子に戸惑っていた。
(あの怯え方はなんだ? 彼女はそれを望んでいるわけじゃないのか? まるで恐ろしい怪物を前にしたかのようだったではないか)
女性というものは等しく子供を欲するものだと思っていた。子供さえ与えておけば満足すると思っていた。当然、雅も同じだと思っていたのだ。
だから、結婚した以上は妻を抱くことが義務だと思って、雅を寝室に誘った。雅は大人しく寝室で待っていたし、清隆の話にもすべて頷いていたから、あの展開を望んでいるものだと清隆は疑わなかった。
それなのに清隆が雅に触れようとした瞬間、雅は急に怯えの表情を見せた。さらには、うわ言のように「ごめんなさい」を繰り返す。もしかしたらその行為が初めてで怖がっているのかもしれないとも思ったが、強く体を震わせ、目の焦点も合わず、呼吸までままならなくなっていれば、さすがにおかしいと感じた。尋常ではない怯え方だった。
雅に何度も呼びかけるがまったく反応がない。ずっと震えている。呼吸も上手くいかないようで息苦しそうだ。
声かけをしてもどうにもならないから、清隆は呼吸を楽にさせようと、雅の背の下に腕を差し入れてゆっくりと雅を抱き起した。そのまま何度か声をかけていれば、雅はゆっくりと清隆のほうへ視線を向ける。そうして雅は小さく謝罪の言葉を口にしてきた。
今までのうわ言のような「ごめんなさい」とは明らかに違う。しっかりと清隆へ向けた言葉だとわかった。目の焦点もちゃんと合っているし、呼吸も体の震えもかなり落ち着いている。それを確認して清隆はようやく雅が正常に戻ったと判断した。
雅の取り乱しように彼女のことが心配ではあったが、ここまで落ち着けばさすがに大丈夫だろうとあの場を離れた。理由はまったくわからないが、清隆が迫ったことがきっかけだったように見えたから、自分が近くにいないほうがよいと思ってそうしたのだ。
「はあ、わからない。彼女はどういう人間なんだ……」
清隆はここにきて、雅のことを何も知らずに結婚したことを少しだけ後悔しはじめた。
自室に戻った清隆は先程の雅の様子に戸惑っていた。
(あの怯え方はなんだ? 彼女はそれを望んでいるわけじゃないのか? まるで恐ろしい怪物を前にしたかのようだったではないか)
女性というものは等しく子供を欲するものだと思っていた。子供さえ与えておけば満足すると思っていた。当然、雅も同じだと思っていたのだ。
だから、結婚した以上は妻を抱くことが義務だと思って、雅を寝室に誘った。雅は大人しく寝室で待っていたし、清隆の話にもすべて頷いていたから、あの展開を望んでいるものだと清隆は疑わなかった。
それなのに清隆が雅に触れようとした瞬間、雅は急に怯えの表情を見せた。さらには、うわ言のように「ごめんなさい」を繰り返す。もしかしたらその行為が初めてで怖がっているのかもしれないとも思ったが、強く体を震わせ、目の焦点も合わず、呼吸までままならなくなっていれば、さすがにおかしいと感じた。尋常ではない怯え方だった。
雅に何度も呼びかけるがまったく反応がない。ずっと震えている。呼吸も上手くいかないようで息苦しそうだ。
声かけをしてもどうにもならないから、清隆は呼吸を楽にさせようと、雅の背の下に腕を差し入れてゆっくりと雅を抱き起した。そのまま何度か声をかけていれば、雅はゆっくりと清隆のほうへ視線を向ける。そうして雅は小さく謝罪の言葉を口にしてきた。
今までのうわ言のような「ごめんなさい」とは明らかに違う。しっかりと清隆へ向けた言葉だとわかった。目の焦点もちゃんと合っているし、呼吸も体の震えもかなり落ち着いている。それを確認して清隆はようやく雅が正常に戻ったと判断した。
雅の取り乱しように彼女のことが心配ではあったが、ここまで落ち着けばさすがに大丈夫だろうとあの場を離れた。理由はまったくわからないが、清隆が迫ったことがきっかけだったように見えたから、自分が近くにいないほうがよいと思ってそうしたのだ。
「はあ、わからない。彼女はどういう人間なんだ……」
清隆はここにきて、雅のことを何も知らずに結婚したことを少しだけ後悔しはじめた。