愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 エンリッチの次期社長候補である清隆は、彼が望む望まないに関わらず、多くの女性に言い寄られる人生を送ってきた。容姿もそれなりに目を引くものであったから、清隆の肩書きと容姿を目当てにすり寄ってくる女は数知れない。そういう女性が勝手に湧いて出てくる。

 清隆が女好きであったなら、その状況を喜ぶこともできただろう。だが、両親の冷え切った仲を見せつけられてきた清隆にとっては、女性というものは心を砕くに値しない存在であった。言い寄られてもただ煩わしいだけ。恋愛なんて楽しむ気になれず、適当に後腐れのない人を見つけて、適度に体の関係を持つくらいがちょうどよかった。結婚自体にもまったく興味がなかった。

 そんな清隆を父は好きにさせていた。父自身が結婚にいい思いをしていないから、清隆に求めることも当然なかったのだ。

 だが、母は違った。旧華族の出身である母は自身の血筋に大層誇りを持っており、清隆にもその血を繋ぐことを強要してくる。いい家柄の女性を娶り、跡継ぎを作るようしつこく求めてくるのだ。

 母は幾度も家柄ばかりを重視した女性を見合い相手として連れてくる。そのたびに清隆は結婚するつもりはないと断るが、母は一向に諦めない。清隆はもうそんな母に辟易していたのだ。

 正直、母が連れてくるような女性には毛ほども興味が湧かない。母のように家のことで口うるさく言われたらたまらないし、血筋がどうのと子供のことで煩わされたくもない。

 だから、父が持ってきたこの結婚話なら、上手く今の状況を打破できるのではないかと考えたのだ。

 相手は新しい業務提携先となる会社の令嬢だが、立場としてはこちらが上だから、清隆のすることにいちいち口を挟んできたりはしないはずだ。むしろ向こうがこちらの言うことを聞く立場であろう。それに母のように家柄の話をされることもない。

 母は気に入らないだろうが、父が用意した結婚話なら、下手に口を出すことはできないはずだ。取引が関わっているような政略結婚であれば当然であろう。

 清隆はそんな考えを巡らせて、最終的にその結婚を承諾したのだ。相手がどんな女性であるかなんて微塵も興味はなかった。うるさい母を黙らせて、仕事に集中できる環境が手に入るならそれだけでよかった。
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