愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 清隆が結婚を承諾したことは向こうにも伝わり、しばらくして両家の顔合わせの場が設けられた。初めて顔を合わせたときの雅の印象は母が連れてくるような女性と何ら変わりなかった。雅はきれいな微笑みを浮かべて、親の話に適度に相槌を打っている。その如何にも淑女らしい振る舞いに清隆は選択を誤ったかもしれないと思ってしまった。この人も外面だけいい母のような人間なのではないかと思ったのだ。

 だから、初めのうちに清隆は釘を刺しておいた。自分に構うなと。さすがに、政略的なものとはいえ、結婚相手からそのようなことを言われれば、不快な表情の一つでも見せるかと思ったが、予想に反して雅はきれいな微笑みを崩さずに清隆の話に承諾したのだ。

 その後も雅は何一つ文句を言わず、ただ黙ってすべてを受け入れる。結婚までの準備も母がいろいろとうるさく言っていたようだが、雅はすべてに従っていた。

 そのあまりにも従順な姿に気味悪ささえ感じたが、何も口を出してこないなら、それほど楽なことはない。顔合わせのときに感じた不安はすぐになくなり、清隆はやはりこの選択をしてよかったと思い直した。
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