愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 身支度を済ませてリビングへ移動してみると、そこにはまだ清隆の姿はなかった。いつものようにハウスキーパーが朝食を用意してくれるが、雅は落ち着いて食事をする気になれない。いつ清隆がここに現れるかと思うと気が気でないのだ。

 一口一口ゆっくりと食事を口に運ぶ。意識的に喉を動かさないと口に含んだものが流れていかない。飲み込むたびに、恐怖の時間が迫ってくるような気がして、なかなか食事が喉を通らない。

 それでも用意してもらったそれは口にしなければと黙って食べ進める。そうして三割程度を食べ終えたところで、とうとうそのドアがガチャリと開く。

 きれいに身なりを整えた清隆がリビングへと現れたのだ。

 雅は食事の手を止めて恐る恐る清隆のほうへと目を向けてみる。清隆はそんな雅をほんの一瞬だけ見遣ったあと、すぐに視線をそらした。そして、その後は一瞥もくれないまま雅の前へと腰かけた。

 テーブルを挟んでいるとはいえ、簡単に声の届く距離にあるのに、清隆は何も言わない。それほど雅に対して怒りを持っているのか、あるいはその価値すらないと思われているか、もしくは人の目がある今はそれを避けているだけなのか。いずれにせよ、目の前のこの人が雅に対していい感情を持っていないことは確かであろう。
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