愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 パーティー当日。清隆と二人で会場へとやってきた雅は、少しの緊張を覚えながらも、戸惑うことなく清隆に寄り添っていた。こういう場には慣れている。一通りの礼儀作法は学生時代に叩き込まれていたし、こういったパーティーもある程度は経験がある。

 さすがに、ここまで大規模なものに参加したことはないが、雅を売り込む目的で父があちこちと連れ回していたから、雅はもう場慣れしているのだ。

 清隆に連れられ、まずは主催者の元へと向かう。主催者のところへは多くの人が挨拶にやってくるから、時間を取らないよう挨拶は軽く済ませる。

 そして、その場を離れれば、清隆が会場をぐるりと見まわした。雅もそれにつられるように軽く周囲を見渡せば、あまりにも多くの人が視界に入ってきて、めまいを起こしそうになる。それを抑え込むように軽く目を閉じた瞬間、清隆が先の行動の意味を示すような言葉を向けてきた。

「先に挨拶をしておきたい人たちがいるから、私についてきてくれ。君は横に立ってくれているだけでいい」

 清隆の言葉に静かに頷く。会場を見渡していたのは知り合いがいるかどうかを確認していたのだろう。パーティー開始まではまだもう少し時間があるから、それまでに挨拶を済ませておくつもりのようだ。

 清隆はすぐに動き出したから、雅も黙ってそれについていく。清隆が声をかける人らに、簡単な挨拶と雅の紹介、そして、結婚式へ出席してくれていた人へはお礼の言葉を述べ、あとはほんの少しだけ会話をする。

 清隆は横に立っているだけでいいと言っていたが、何か言葉を求められれば当然黙っているわけにはいかず、雅はその場の雰囲気に合わせて会話をこなしていた。

 そうやって二人は何人かの参加者への挨拶を滞りなく済ませた。
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