愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 それからすぐにパーティー開始の挨拶が始まり、乾杯まで済んでしまえば、歓談の時間が訪れた。雅と清隆は軽く料理を楽しみながらも、他の参加者との交流の時間も持つ。とはいえ、雅は清隆に付き従うだけだ。

 こういう場にいる清隆の姿を見るのは今日が初めてだが、さすがは大企業の役員なだけあって、惚れ惚れとする立ち振る舞いだ。とても落ち着きがあるのに、威厳もあって、威圧感ばかりが強い父とは大違いである。

 雅はそんな彼に恥をかかせないようにといつもよりも気を張って過ごした。せっかく与えてもらったこの役目をしっかりと果たしたかったのだ。

 そのまま二人は和やかな空気で多くの人との交流を行い、パーティーも中盤と思われる時間に差しかかった頃、清隆がある方向を示しながら雅に小さく話しかけてきた。

「もう一人挨拶をしておきたい人を見つけた。あちらにいる比較的小柄な男性。尼ヶ崎玄一郎(あまがさきげんいちろう)さんだ。私たちの結婚式にも出席してくれていたがわかるか?」

 雅はその人物のことがすぐにわかった。結婚式に出席してくれた人の中でも印象深い人だったのだ。

「はい。覚えています」
「そうか。加々美家は何かとお世話になっているんだ。今までの君の対応を見るに特に問題はないと思うが、粗相がないように気をつけてくれ」
「はい」

 雅がしっかりと頷けば、清隆はそれに満足そうな表情を見せ、件の人物の元へと向かいはじめた。
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