愛なき政略結婚は愛のはじまりでした

「尼ヶ崎さん」

　清隆が声をかければ、玄一郎はすぐに柔らかい笑みを浮かべて、迎え入れてくれる。

「ああ。清隆くん。それに、雅さん。結婚式以来だね」
「はい。その節は、私どもの結婚式にご出席くださり、本当にありがとうございます」
「いやいや、久しぶりに楽しい時間だったよ。清隆くんのことは小さい頃から知ってるからね。本当に感慨深くて。妻もとても楽しそうだったよ」

　玄一郎は彼の妻と一緒に結婚式に出席してくれていたのだ。雅は彼の妻のこともよく覚えている。

「そうですか。楽しんでいただけたのなら何よりです」
「パートナーがいるとやはり違って見えるね。こんなにきれいな奥方を連れて、君も鼻が高いだろう」
「はい。それはもう自慢の妻ですから」

　ただの社交辞令だとわかっているが、清隆にそういう扱いをされるとどうにもむず痒い気持ちになる。その心理を悟られるのはどうにも恥ずかしく、雅はいつもの慣れた笑みを浮かべて対処していた。