愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 それは雅がこの玄一郎と初めて顔を合わせたときのこと。雅と清隆の結婚式において、初めて言葉を交わしたときのことだ。

 玄一郎は清隆に対し、雅のことを大切にしなさいと言う一方で、雅にも温かい言葉をくれたのだ。それはこんな言葉であった。

『雅さん。清隆くんと結婚してくれてありがとう。彼はこれまでひたむきに頑張ってきたから、こうして素敵な伴侶を見つけてくれて嬉しい。これからたくさんの出来事が起こるだろうが、長く時が経って振り返れば、いつかすべてがいい想い出に思えたりするものだ。どうかそんな未来が訪れるよう、二人で支え合っていってほしい』

 玄一郎から真っ直ぐに向けられたその言葉に雅は感動を覚えていた。玄一郎の隣には玄一郎の言葉を裏付けるように優しく微笑んで頷く彼の妻の姿があり、二人のその姿に雅は強く励まされたのだ。

 雅が多くの不安を抱えながらも清隆のそばに居続けていられるのは、父からの圧力といったネガティブな要素はもちろんあれど、玄一郎のこの言葉によるところも大きい。

 雅と清隆が彼らのようになれるかはわからないが、それでも雅の中には小さな希望が宿っている。いつか清隆にとって、雅との日々がいい想い出になってくれればいいとそう願っている。

「尼ヶ崎さんからの温かいお言葉、大変胸に染みておりました」
「そうか。あなたは本当に素敵な人だね。妻がね、あなたのこと、とても気に入っているんだよ。近いうちに、清隆くんと家へ遊びに来なさい。妻と一緒に歓迎するから」

 結婚式のあの短い時間で、いったい自分のどこをそんなに気に入ってもらったのか。雅にはそれがさっぱりわからなかったけれど、この人が言うのであれば本当のことなのだろう。雅は戸惑いつつも、素敵な尼ヶ崎夫妻から気にかけてもらえたことに純粋な喜びを感じて、またも自然と感謝の言葉を口にしていた。
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