愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 それからもうしばらくの時が経ってパーティーが終わり、いつもの運転手に自宅まで送り届けてもらう中、雅と清隆は何の会話もしなかったけれど、なぜだか二人の間の空気はとても優しく感じられた。ずっとこの時間が続けばいいと思ってしまうくらいに。

 だが、自宅に着いてしまえば、もう今日の特別な時間も終わりである。いつも通り静かに自分の部屋へ向かおうとした雅は、しかし、清隆の「雅」という呼び止めによってすぐにその足を止めることとなった。

「君のおかげで、今日はいい交流の時間を持てた。特に尼ヶ崎さんは君のことをえらく気に入っているようだし、家に招待してもらえたのも君のおかげだ。ありがとう」

 雅は驚きに思わず目を見開く。清隆が雅に対して「ありがとう」なんて言葉を口にするのは初めてだ。

 母が父に感謝の言葉をもらっているところは一度だって見たことがないし、妻が夫のために何かをするのは当たり前のことだと思っているから、清隆が雅にそれを言うだなんて夢にも思っていなかった。

 あまりにも予想外のことが起こって雅は反応ができない。
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