愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 しかし、今日、清隆の横に並び立つ雅はいつもの雅とは異なっていた。彼女の所作が完璧であることは、ただそういう場に慣れているだけだと思えるが、その場の会話を上手く回すその手腕に清隆は舌を巻いていた。

 雅が率先して会話を仕切っているというわけではない。必要なところでさりげなく会話を繋ぎ、場の空気をいい方向へと流してくれるのだ。

 あれは何も考えていない人間にできる芸当ではない。余程頭の回転がよくなければこなせないだろう。

 それに雅は、結婚式でほんの短い時間しか顔を合わせていないゲストのこともしっかりと覚えていた。玄一郎とのやりとりで雅がそのときの会話まで覚えているのだとわかって、清隆はもう感心しきりであった。

 どうやら雅はとんでもなく優秀な人間らしい。普段の雅がどうしてあんなにも控えめなのか理解できなくなるくらい、今日の雅は魅力的だった。

 それに、つい先程清隆に見せてくれた雅の姿はとても愛らしかった。清隆の言葉に目を大きく見開いて、驚いた表情をしていたのだ。雅がそんな素に近いような表情を見せるのは初めてのことだ。動揺を見せる彼女はなぜだかとてもかわいかった。なんだか彼女の内側を知れた気がして、清隆は不思議な満足感を得ていた。
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