愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 尼ヶ崎夫妻の自宅に到着してみれば、雅と清隆は尼ヶ崎夫妻からの大きな歓迎を受けた。玄一郎も勢津子もずっと嬉しそうに表情を緩めていて、それだけで雅は緊張が解けていく。贈り物に関する不安も、いつの間にやら勢津子が喜んでくれることへの期待に変わっている。

 そうして、いざその贈り物を渡す段になれば、勢津子は中身を知る前から大層嬉しそうな表情を浮かべてくれたから、それを見た雅まで嬉しい気持ちになった。

 開けてもいいかと尋ねる勢津子に、ぜひと促せば、勢津子は受け取ったとき以上の笑みを浮かべてくれる。

「まあ、素敵。カスミソウがあしらってあるのね。とてもかわいいわね。大きさもいろいろあって、使い勝手がよさそうだわ」

 勢津子は大中小三つのポーチを一つずつ手に取りながら眺める。ワンポイントとしてあしらわれたカスミソウのデザインを指でなぞって、とても嬉しそうに微笑んでいる。

「素敵な贈り物をありがとう。とっても嬉しいわ」
「喜んでいただけて何よりです」

 雅と清隆は互いに目を合わせて、軽く微笑んだ。二人とも確かな手ごたえを感じたのだ。勢津子は間違いなく喜んでくれたのだと。雅はなんだか清隆と二人で一緒に一つのことを成し遂げられたような気がして、とても嬉しい気持ちになっていた。
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