愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 その後、しばらくは四人で座ってあれこれと話す。そうしてある程度会話が落ち着けば、男性二人は少し仕事に関わる話がしたいからと別の部屋へと移動していった。

 残された雅は勢津子と二人できれいに手入れされた庭の風景を眺めながら、会話を楽しんでいる。

「雅さん。もしかしてだけれど、あのデザインだったのは敢えてかしら?」

 ポーチにあしらってあるカスミソウのことを言っているのだろう。雅は敢えてそのデザインのものを贈っていた。結婚式でカスミソウを眺める勢津子の姿を思いだして、それがいいと思って選んだのだ。

 けれど、勢津子の言葉に、もしかしたら余計なことだったのではないかという不安が湧いてくる。

「ご気分を害してしまっていたら、申し訳ございません」
「あら、違うのよ。あなたの心遣いがとても嬉しかったのよ。本当にありがとう」

 勢津子のその台詞に雅は大きく安堵する。あのデザインにして間違いではなかったようだ。

 勢津子はその後、カスミソウに何の意味があるのかを雅に語って聞かせてくれた。ある大事な人との想い出話を教えてくれたのだ。


 そうして一時間くらいが経過すると男性陣が戻ってきたから、そこで今日のお宅訪問はお開きとなった。

 勢津子は雅と清隆の去り際にも、プレゼントに対するお礼の言葉をくれた。本当に心から喜んでくれたようだ。

 雅はもう行きに感じていた不安はすっかり消え去り、とても晴れ晴れとした気持ちで尼ヶ崎夫妻の家をあとにしたのだった。
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