愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 二人の住まいへと帰ってくると、清隆は珍しくも雅をリビングへ促し、ソファーへと座るよう示してきた。すぐ真横に清隆も座ってくるから、雅は落ち着かない。

 きっと何か話があるのだろうと清隆へ視線を移せば、清隆はなんとも柔らかい表情で雅のほうを見ていた。

 それを目にすれば、雅の心臓がおかしな音を立てる。思わず自分の胸を押さえそうになったのを堪えていれば、清隆は柔らかな表情のまま話しはじめた。

「尼ヶ崎さんから不動産のことでいい話をいただいたんだ。奥様が我々のプレゼントをとても喜んでいたから、そのお礼だと言ってね」

 ポーチがそんな大きな話に化けるだなんて驚きである。玄一郎は恐ろしく太っ腹な人なのだろうか。

 雅がそんな疑問を抱いていれば、清隆がその答えをくれる。

「まさかプレゼントだけでと驚いたんだが、あのプレゼントにはとても大きな意味があると言われたんだ。君はそれがわかっているんだろう?」
「それは……」

 勢津子から聞かされた想い出話が蘇る。カスミソウに特別な意味合いがあることは、玄一郎もわかっていたのだろう。だからこそのお礼なのだとわかる。

 けれど、勢津子から聞いた話を勝手に口にしてしまうのは憚られて、清隆の問いに答えられない。

「答えは君に聞けと言われたんだ。奥様が君に全部話しているはずだからと。教えてくれないか?」
「そういうことでしたら」

 玄一郎がそう言ったのならば、きっと問題ないだろう。雅はそう判断して、今日勢津子から聞かされた話を、清隆にも語って聞かせた。
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