愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「ふっ、その表情も初めてだな。いつもの笑みよりずっといい」

 頬に手を当てられたまま親指で優しくなぞられ、なんだかよくわからない気持ちを駆り立てられる。

 清隆は親指を何往復かさせたあと、急に雅のことを強い瞳で見つめはじめた。

 その瞳から雅は目をそらせない。そのままじっと見つめ返していれば、徐々に清隆の顔が近づいてくる。焦点が上手く合わないくらいにまで近づけば、雅は自然と目を閉じていた。

 すぐに唇に懐かしい感触が訪れる。一回目のそれは恐怖でしかなかったけれど、二回目のそれはとてもとても恥ずかしかった。自分でもどうしてそう感じるのかはわからなかったが、強い羞恥の感情を抱いて、勝手に瞳が潤んでいくのが自分でわかった。
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