愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
　唇が離れ、ゆっくりと目を開けて目の前の清隆を見てみれば、先ほど以上に強い瞳で見つめられる。この先を予感させるようなそれに、雅はドクンと大きく鼓動を鳴らす。

　清隆にゆっくりとソファーへ押し倒されていき、ようやくそのチャンスをもらえるのだと安堵の気持ちが押し寄せる。だが、そう感じたのも束の間、またもや雅を、自分ではどうしようもない恐怖の感情が支配していく。

　目の前の光景が霞んでいき、体が震えだす。必死にこの場に意識をとどめようとするが、勝手にそれが蘇ってこようとする。上手く呼吸もできなくなって、苦しくなっていると、勢いよく体を引き起こされ、意識が現実のその場にとどめられた。

　まだ体の震えと呼吸の乱れが治まってはいないが、言いようもない恐怖心は徐々に薄くなっていく。

「落ち着け」

　すぐ間近から声が聞こえて、今この場に清隆がいることを思い出す。

「すみま、せん」
「いい。いいから、ゆっくり呼吸しろ」

　その言葉に促されるように意識的に呼吸をしていれば、徐々に体の震えも治まっていく。
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