愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
***

 清隆は俯いて両手で顔を覆うと盛大なため息をこぼした。

「はあ、やってしまったな」

 雅のあの怯え方を見てから、ずっと雅との距離感には気をつけていたのだ。何がどうしてああなってしまうかわからないから、必要以上には近寄らないようにしていた。

 いくら興味がないといっても、あんなものを見てしまえば、気を遣わないわけにいかない。距離を取ってしばらくは様子を見ているつもりだったのだ。

 けれど、あのパーティーをきっかけに、清隆は雅に興味を抱いてしまった。彼女のことを知りたくなったのだ。雅には底知れぬ奥深さがあるとわかって、彼女の内面を覗きたくなってしまった。

 今日、玄一郎の家へ一緒に行ったのも、勢津子の贈り物に意見を求めたのも、彼女のことが知りたかったからだ。次はどんな面白い姿を見せてくれるかと期待していた。

 実際、雅は驚きの結果をもたらしたのだ。やはり彼女は特別な人なんだと清隆は確信した。恐ろしいくらいの魅力を詰め込んだ人だとわかった。

 それは雅が起こす行動だけでもなくて、先程の彼女が見せた表情もそうだった。

 首元のネックレスに触れて、嬉しそうにはにかむ雅は、今まで見てきたどんな女性よりも美しかった。あんなに素直な反応を見せる人は初めてだった。彼女の喜びがその表情からビシビシと伝わってきて、清隆は全身の血が沸き立つような感覚に襲われた。

 雅に触れたくてたまらなくなった。ほとんど無意識に押し倒していた。

 雅を自分のものにしたくてたまらなかったのだ。

 きっとそれは今日玄一郎から聞かされた話も関係しているだろう。
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