愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「勉強している時間以外は何をしている? 何か趣味はないのか?」
「趣味は……」

 またもや返答に詰まる。雅の表向きの趣味は生け花である。父に趣味にするよう言われてそうなった。特別な思い入れのない趣味である。

 通常であれば躊躇わずに生け花だと答えるが、きっとそれは清隆の求めている答えではないだろう。清隆は雅の本当の趣味を訊いているのだと思った。

 実は、雅にも一つだけ趣味といえるものがある。実家にいた頃は、ほんの少しの自分時間にひっそりと楽しんでいた。それは唯一雅が雅でいられる時間だった。今思えば、それが雅の好きな時間だったのかもしれない。

 けれど、その趣味のことは父に悟られてはいけないと母からよく言い聞かされていたから、決して表には出せなかった。恥ずかしいようなものでも何でもないのだが、もともとは母の趣味であったそれを、父はあまりよく思っていないらしい。そもそも父は、母が趣味を持っていること自体が気に入らなかったようだ。

 雅も結婚するにあたって、清隆によく思われなかったらいけないと、趣味の道具はすべて実家に捨て置いてきた。

 そんな事情があるから清隆に話していいものか迷ってしまう。雅が続く言葉を言えないでいれば、清隆はその質問の意味を補足してくる。
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