愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「顔合わせのときのような答えは求めていない。君が本当に好きだと思うことはあるのか?」

 顔合わせのときに生け花が趣味だと言ったのを覚えているのだろう。そして、それが本当の趣味でないことは清隆にはばれているようだ。

 雅は迷いながらも『はい』か『いいえ』で答えられるその質問に正直に答えた。

「……はい」
「そうか。それをして過ごしたりはしないのか?」
「はい」
「はあ……最初に、好きに過ごしてくれて構わないと言っただろう? 私は、妻に趣味を楽しむ時間も与えないようなひどい夫ではない」

 清隆のことを蔑むつもりなんてまったくなかったのだが、雅の行動が彼の気持ちを蔑ろにしてしまったのだと思い、雅は慌てて頭を下げた。

「申し訳ありません」
「違う。責めているわけではない。勉強することが好きだというなら、それはいくらでもしてくれて構わない。でも、きっと君は私のためにそれをしてくれているんだろう?」
「知っておいたほうがよいと思いましたので」
「ああ。君のその気持ちは嬉しい。本当にありがたいと思う。だが、君の本当に好きなことは他にあるんだろ?」

 清隆の表情はとても柔らかい。正直な思いを口にしていいのだとそう言ってくれている気がする。

 雅は清隆の優しさに押されて、またも正直に答えた。

「……はい」
「だったら、それを楽しんでくれればいい。君には自由に過ごしてほしいんだ」
「ありがとうございます」
「ああ。言いたくなければ言わなくても構わないが、いつかその趣味の話を私に聞かせてくれたら嬉しい」
「はい」

 胸の内側がぽかぽかと温かくなるような心地がする。自分を受け入れてもらえたような気がして嬉しくなる。

 その気持ちを堪えきれずに、今の感情のまま微笑みを浮かべてしまえば、清隆に、
「君のその笑顔はとてもかわいい。ずっとその表情を見ていたい」
と言われて、雅の心臓はひどく暴れだした。

 その鼓動をどうにかしようと思わず胸に手を当てれば、清隆はおかしそうにくすりと笑ってからリビングをあとにした。
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