愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「姉さん、久しぶり」

 実家を出てからまだ一年と経っていないのに、誠一郎を目の前にすれば、懐かしく感じる。父は雅が誠一郎に関わることを嫌っていたから、嫁いでしまえばこんなふうに会うことなんてもうできないと思っていた。

 まさかの訪問に驚きはしたものの、自分のもとを訪れてくれたことがとても嬉しい。けれど、その一方で雅は誠一郎が心配でもあった。

 二人で会っていたことが父に知られれば、きっと父は許さないに決まっているのだから。

「久しぶりね。突然だから驚いたわ。ここへ来て、お父さまは大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。実はさ、一人暮らしを始めたんだよね」

 予想外過ぎる事実を告げられて雅は驚いてしまう。父が誠一郎を手放すだなんて本当に信じがたいことなのだ。

「え? そうなの? お父さまがよくお許しになったわね」
「僕には結構甘いからね。だから、大丈夫だよ。でも、ばれるとうるさいから、今日来たことは内緒にしておいて?」
「ふふ。わかったわ」

 ばれてうるさく言われるのはきっと雅のほうだろう。誠一郎のその言葉は雅のために言ったものだろうが、まるで誠一郎のためだというようなその言い方に、雅は思わず笑いをこぼして頷いていた。
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