愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 その後は実家のことや誠一郎の今の暮らしのことをいろいろと訊いていた。結婚するまで家族と離れて暮らしたことなんてなかったから、あれこれと気になってしまうのだ。

「ははは。姉さんは相変わらずだね。人の心配ばかり。姉さんは今の生活どうなの? つらい目にあってない?」
「大丈夫よ」
「本当に? 誰にも言ったりしないから、正直に話して大丈夫だよ?」

 本当に心配そうに窺ってくる誠一郎に懐かしい気持ちになる。実家にいる頃も誠一郎はよく雅のことを心配してくれていたのだ。

「ありがとう、誠一郎さん。でも、本当に大丈夫なの。清隆さんにとてもよくしてもらっているから何も困ってないわ」
「姉さんが我慢しているだけじゃない? あの人、姉さんに冷たかっただろ?」

 清隆を冷たいだなんて思ったことは一度もないから驚いてしまう。体格や表情から恐ろしいとは感じてしまっていたけれど、もうそれだって今は感じていない。最近では優しいと思うことのほうが多いのだ。

「そんなことないわ。とても優しくしてくれているの。むしろ私のほうが上手く尽くせていなくて、清隆さんを失望させていると思う」
「そんなことあるわけないだろ? 姉さんは自分に厳しすぎるんだよ。たくさん我儘言って振り回してやればいい」

 あまりの言いように雅は思わず笑ってしまう。

「ふふ。そんなこと言ってはだめよ」
「いいんだよ。姉さんはそのくらいしてちょうどいい。何かしてほしいことがあれば、僕のこともいつでも頼っていいからね?」

 その頼もしい言葉に、雅はじーんと胸が温かくなる。

 跡継ぎの役目を負う誠一郎は、雅よりもずっとずっと大変な毎日を送っているはずなのに、誠一郎はいつだって前向きで明るくて、思いやりにまで溢れている。

 こんなにも素敵な弟がいて、雅は幸せだ。

「心配してくれて、ありがとう。とても嬉しい。でもね、私は本当に大丈夫だから、安心して?」

 もう一度諭すように言えば、誠一郎はため息をこぼしながらもようやく納得をしてくれた。

「はあ、わかったよ。でも、何かあったら、本当にいつでも連絡して? すぐに助けに行くから」
「ええ。ありがとう」
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