愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 それからすぐに清隆はリビングのほうへと向かってしまったから、雅も急いで必要なものを持って彼のあとを追った。

 リビングへ入れば、清隆はソファーに座って、自分の隣を叩いてそこに座れと示してくる。隣り合って座るのはどうにも落ち着かないのだけれど、清隆がそう示している以上は従うしかない。

 雅は「失礼します」と言いながら、おずおずと清隆の隣へと腰かけた。

 清隆は、雅が隣へ座ったのを確認すると、それで満足したのか、手に持っていた何かの書籍へと目を移し、もう雅には構ってこなかった。

 本当にただ一緒にいるだけで、各々好きに過ごすつもりらしい。

 清隆がこちらに注目していないのなら、そこまで緊張はしなくて済むかもしれないと、雅はほっと胸を撫でおろす。

 雅は先ほどまで編んでいたものを手に持つとそのまま静かに続きを編みはじめた。

 雅も清隆も何も話さない。ただ隣にいて自分のやりたいことに集中する。

 さすがに、初めてすぐは清隆の様子が気になって、目の端で清隆を窺っていたが、しばらくすればレース編みのほうに夢中になっていた。
< 71 / 177 >

この作品をシェア

pagetop