愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
　今日も午後のひとときをいつもの場所で過ごそうと、雅は必要な道具を持ってリビングへ向かう。自分の定位置に座り、今ここにはいない清隆の存在を遠くに感じながら、趣味に耽る。

　ここ最近は大きめの作品を作り上げようと毎日少しずつ編み進め、もうそろそろ完成というところまできていた。引きで作品を見れば、もうほとんど完成形が見えている。

　いつもなら目の疲れが気になってきたところで手を止めてそのまま終了してしまうが、あと少しで完成すると思うとなかなかやめられない。雅は時間も忘れてレース編みに没頭した。

　そうして結局最後まで編みきり、糸の始末を終えると、雅は満足のため息をついた。

　ずっと集中していたから目が疲れている。雅は指で軽く目頭を押さえるともう一度軽く息を吐き出す。

　と、そのタイミングでリビングのドアがガチャリと開く音がする。

「雅、ただいま」

　清隆が雅に向かってその言葉を放ったのと雅が慌てて振り返ったのが同時だった。
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