愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「やはり、やめておこう」

 清隆はそのまま雅から離れていこうとする。三度までも失敗するなんて絶対に許されない。雅が自分を許せない。それに今日はどうしても触れてほしいのだ。清隆をとても近くに感じられた今日進まなければ、きっとこの先も進めない。

 これまでの雅であれば、清隆が言うことに逆らったりなんてしなかったであろう。大人しく引き下がっていたと思う。

 でも、今このときだけはそれができなくて、雅は初めて清隆の言うことを振り切って、自分の想いを口にした。

「お願い、します。やめないでください」
「だが、震えるほど怖いんだろう?」
「大丈夫、です」

 清隆を見つめて必死に訴えかけていれば、清隆は諦めたように深くため息をついた。

「はあ。わかった。だが、無理だと思ったらすぐに教えてくれ。いいな?」
「はい」

 雅が頷けば、清隆は困ったように微笑みながら、雅の頬へ触れてきた。もう一度触れてもらえたことに大きな安堵の気持ちが広がっていく。

「抱きしめても?」

 こくりと雅が頷けば、清隆は優しく包み込むように雅の体を抱きしめる。清隆の大きな体にすっぽりと包まれている。出会った当初はこの大きな体がとても恐ろしいものに感じられたけれど、今はこの大きな体に深い安心感を得ている。

 清隆は数分の間、雅を抱きしめてからゆっくりと体を離し、もう一度優しいキスをくれた。
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