愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「まだ平気か?」
「はい」
「なら続ける」

 清隆はゆっくり丁寧に雅を導いてくれる。雅の様子を一つ一つ確認し、決して無理には進めない。何度も「雅」と声をかけてくれるから、初めての行為もあまり怖くはない。彼に名前を呼ばれるたびに安心感が広がっていく。

 いざ体を繋げる段に至れば、さすがに恐怖心が湧いたけれど、ずっと雅を気遣ってくれる清隆の存在を感じていればちゃんと乗り越えられた。

「雅。こっちを向いて?」

 初めて体験する違和感と少しの痛みに顔を俯けていれば、清隆が雅の顎にそっと手を添えながら、雅の顔を上へ向けるよう優しく導いてきた。

 逆らわずにそのまま顔を上げて、閉じていた目を開けば、変わらずに優しい表情を浮かべる清隆の顔がある。

「無理してないか?」
「大丈夫です」
「本当か? 痛いんじゃないか? 正直に言え」
「……痛みは少しだけ。でも、大丈夫です」
「そうか。怖くはないか?」

 清隆はもうずっとそうやって気遣ってくれている。何度も「怖くはないか」と尋ねてくれた。こんなにも雅のことを大切に扱ってくれているのに、怖いと思うはずがない。

「はい。大丈夫です」
「ん。なら、あとは私に掴まって、そのまま身を委ねていなさい」
「はい」

 清隆の言う通りに彼の体にしっかりと腕を回して抱きつき、あとはすべて委ねた。

 清隆は最後までずっと「雅」と名を呼んでくれたから、今結ばれているのは他の誰でもなく『雅』と『清隆』なのだと実感できた。ようやく、ようやく清隆と真に夫婦の契りを交わせたのだと、雅は深い深い安心感を得ながら眠りに落ちた。
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