愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
＊＊＊

　目の前に座る誠一郎は先程までとは打って変わって、不満そうな表情をしている。清隆が騙し討ちのようなことをしたのが気に入らないのだろう。いや、清隆自身が気に入らないだけかもしれない。

「親睦を深めるためのランチだったのでは？」

　誠一郎は清隆に堂々と不満をあらわにした声で尋ねてくる。まあ、それもしかたがない。誠一郎には他の社員も含めてのランチという体で昼の時間の約束を取りつけていたのだが、今、この場には他の社員の姿はなく清隆しかいないのだから。

「申し訳ない。どうしても二人で話したいことがあったんだが、プライベートで誘えば、君は応じないだろうと思ってこのような手段を取った。騙すようなことをしてすまない」

　清隆は誠一郎へと頭を下げて謝罪の意を示した。

　本当は直接誠一郎に連絡を取って、二人で会えたなら、それが一番よかった。だが、清隆のことを嫌っている誠一郎に、プライベートで接触を図るのは難しいだろうと判断して、強硬手段に出たのだ。

　今日は笹崎紡績との業務提携に関する打ち合わせが午前中に入っており、そこで誠一郎が顔を出すとわかっていたから、皆で一緒にランチをするのはどうかと鳴海経由で連絡していたのだ。関連するメンバー全員で交流をしようと言って。

　だが、実際には、打ち合わせが終わってすぐに、誠一郎だけをすぐさま清隆の部屋へと招いた。そして、弁当が二つだけ置かれたテーブルに誠一郎を座らせたのだ。
< 86 / 177 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop