愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 誠一郎は盛大なため息をついている。

「いかにもあなたがやりそうなことですね。私は仕事以外であなたと話すことは何もありません」

 そう言って立ち上がろうとする誠一郎を清隆は慌てて止める。

「待ってくれ。雅のことでどうしても訊きたいことがあるんだ。頼む」

 清隆は雅が時折見せていたあの異常な怯え方に関して、誠一郎に話を聞こうと思ってこの場を設けたのだ。雅のことを随分と慕っているように見える誠一郎なら、答えをくれるのではないかと思っていた。

「はあー。それなら初めからそうだと言ってください。姉のことなら私も断ったりしません。まあ、私が答えるかどうかは質問の内容次第ですが」

 座り直してくれた誠一郎に清隆はもう一度頭を下げる。

「ありがとう。本当にこんなやり方をして申し訳ない」

 誠一郎はもうわかったというように、清隆のそれを手で制した。
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